第二百八十話 「機械仕掛けの神」の不在性に対する証明
エクスの崩壊と共に、他の機械人形も停止する。
「終わったんです、よね?」
「.....ああ、ホワイトのやつが決着をつけたらしいな」
そうして俺たちはホワイトさんへと駆け寄る。
「ホワイトさん...」
「ああ、全て終わったぜ.....んじゃ、まあ、デウスの残した資料を拝見しようじゃないか」
「ええ、これで悪魔の全貌が.....」
旅の大きな進歩に心が熱を帯びていくのがわかる。
しかし、それへ水を刺すのはリイだ。
「......皆さん、それもよろしいのですが、魔力炉の様子がおかしいようです........」
魔力炉へ目をやると.....
魔力炉は不気味なほどに膨張し、ぐつぐつと言う不愉快な音が断続的に響いている。
「.........エクスの野郎が負荷をかけすぎたんだ、制御機構が死んやがる」
魔眼で魔力炉を一瞥したホワイトさんが苦虫を噛み締めるような顔で言い放つ。
「......どういうことですか?」
「すぐにでも、逃げなきゃやばいってことだ....!!!!」
その直後、素人の俺でもわかるレベルで魔力炉が膨張する。
「やべえ!!おまえら!俺の後ろに!!!」
「岩、壁となれ」
ホワイトさんが魔術を詠唱し、壁を形成するもこの程度の壁では焼け石に水だろう。
「俺の反射で!!」
「無茶だ!!死んじまうぞ!!」
しかし、その瞬間マキナが動く。マキナの手がコードのようなものに変形し、魔力炉へ接続される。
「ご安心を....マキナにはエクスが機能停止した際の保険として魔力炉の制御キーが備わっております」
「さすがマキナ!!!」
しかし、その希望ははいとも簡単に打ち砕かれる。
「ですが、もはや魔力炉の崩壊と爆発は不可避です。マキナが抑え込んでいる間に退避を」
俺は嫌な予感がし、マキナへ問いかける。
「マキナはどうなるの?」
「マキナは爆発に巻き込まれ、破壊されるでしょう」
俺は頭の中で考えを巡らせるも、何も思い浮かばない。リイも義輝さんも同様なようだ。しかし、俺たちに残された時間はもうほとんどない、あれこれ考えている間に全員が消し炭になってしまうだろう。
「......ここは、退くほかないでしょう」
「......マキナ、すまないな」
「マキナ......」
「いえ.....マキナの方こそ、お役に立てず申し訳ありません.........ここまで運んでいただいたご恩も、皆様からいただいた『心』も決して忘れません」
そうして、俺たちは脱出の準備に入る。
しかし、意外にもそれに待ったをかけたはホワイトさんだ。
「ダメだ...なにか、解法があるはずなんだ.....だから!」
「ホワイトさん!!」
「そうだ!!俺の氷魔術で!!」
「貴方の氷は先ほど、溶かされていたでしょう?」
リイが優しく嗜める。
「じゃあ....エクスの脳内から制御キーを抜き取って.........」
ホワイトさんらしくない.....どうしたんだ?
「そんな時間ないですよ!!」
「なら....なら.........クソッなんで思いつかねえんだよ!!!!」
ホワイトさんは声を荒げる。
もう本格的的にやばくなってきた。魔力炉は風船のように膨張している。
「死にたいのか!!ホワイトッ!!!!」
そこでこれまで静観に徹していた義輝さんが声を荒げ、ホワイトさんをぶん殴る。
「【剣豪】.....てめえっ!!」
ホワイトさんは義輝さんにつかみかかろうとする。
「ホワイト様!!!」
そこに割って入るのはマキナだ。
マキナはホワイトさんの手を握り語りかける。
「マキナは......やっとわかったのです。『心』とは、自分とは別の個体を『大切』だと思うことができるということだと........それを教えてくださったのは、博士やリイ様、【主人公】様、義輝様......そして、何より....ホワイト様なのです」
「マキナは、ホワイト様のお顔を三年ぶりに拝見した時、『嬉しい』と感じたのです。ホワイト様や皆様とお話ししている時『楽しい』と感じたのです」
「なら、俺だって...!!」
「だから、マキナを....マキナの『楽しい』のために戦わせてください!!!そして、皆さんは....皆さんの『楽しい』のために戦ってください」
ホワイトさんは立ち上がるとぶっきらぼうに言い放つ。
「.................【剣豪】、俺を担げ」
「.......ああ」
「マキナ....俺がお前を必ず修理してやる」
「それは...『約束』でしょうか?」
「......!!、ああ、約束する」
「では、マキナはいつまでもお待ちしております」
そうして、俺たちは迷宮を逆走する。
そうして、俺たちがなんとか爆発の範囲外に退去した瞬間、最奥部から凄まじい爆音が響く。
仲間を見捨てて逃げ延びた俺たちと仲間を想って高潔な死を選んだマキナ.........
「................どっちが機械かわからないな」