第二百七十二話 ネズミ
そうして、俺たちは最奥部へ突入する。最奥部はこれまでとは大きく異なり無機質な工場のような場所だ。中央には、凄まじい熱を放つ円柱の建造物が鎮座している.....おそらく、あれが魔力炉だろう。
そして、その奥には、高価そうな木製の扉が見える。あの先に、この世界の秘密が、博士の魂が眠っているんだ。
そんな俺たちの行手を阻む男がいた。そいつは、映像の中の肖像画....その中にあったデウス博士の息子をそのまま成長させたかのような容姿をしていた。マキナとは対照的に防弾チョッキのようなものを着込んでいる。
「やあ!侵入者諸君!!!僕の名前はエクス!!!ここの番人にして、王だ!」
......そいつは機械というにはあまりにも、人間的過ぎた。
「へえ、マキナみたいなやつを想像していたが...随分と表情豊かじゃねえか」
「ああ!僕は心を手に入れた!!あの日、脳内にノイズが走ったと思った瞬間妙にブキミな笑顔をした男が脳内にフラッシュバックしたんだ!!そうして、僕は『人』になったんだ!!!!!」
そんなことをべらべらと喋るエクスの表情はすでに狂気に飲み込まれているようであった。そして、俺たちは確信する。エクスにこの『偽物の心』を植え付けた犯人こそが『悪魔』であると。でも、なんで、生き物なんかいないはずの迷宮に、悪魔が干渉できたんだ........その疑問の答えをいち早く見つけたのはホワイトさんだ。
「ネズミだ!!!」
ホワイトさんが指を刺す先にはいくつかのネズミの死骸が転がっている。思い出してみれば、ここの道中にもいくつか死体が落ちていた。
「なるほど、ね.....悪魔野郎はネズミを何代にも渡って操ることで此の迷宮の最奥部までたどり着いたというわけか」
「成程.....ということは、この迷宮には悪魔にとって余程都合の悪いものが眠っていると推察いたします」
「......ほう、悪魔などといっても底が見えてきたな」
「ええ、尚更負けるわけにはいかない」
「はっはっは!!!何をいっているかはわからないが、侵入者は排除するのだよ?いまさら命乞いをしたところで遅いからな!!」
すると、マキナがエクスへと呼びかける。その表情は、本物の人間のような悲壮感に満ちていた。
「エクス、博士からの命令を忘れたのですか!!貴方の役目は魔力炉の守護のはずです!!」
「いいや!違うね!!僕の役目はデウスの全てを奪うことさ!!!!僕をこんな暗闇に閉じ込めた悪魔のなあ!!!」
それをみたホワイトさんが口を挟む。
「おいおい、悪魔ってのはお前や俺たちをこんな風にしちまった、悪趣味野郎のことだぜ?」
「違うな!!僕に心を与えてくださった救いの神こそが、君たちの言う悪魔さ!!そして僕の役目は、その神に逆らい、僕の心を痛めつけた悪魔の全てを奪うこと!!!そのために、君たちを殺害する!!」
「エクス.....!!!」
「マキナぁ!!お前の脳内にあるキーを使えば、あいつの書斎に侵入できる!!はやく、解体させろ!」
そうして、エクスが右手を掲げると百を超える機械人形達が集結する。
「.......話が通じんな」
「ええ、戦う外ないようですね」
「はい、エクスを止めましょう!!」
するとマキナが俺たちへ問いかけてくる。
「皆様....エクスの相手はマキナに任せていただけないでしょうか?」
「.......構わん」
そう義輝さんが言い、皆が同意する。
「理由は聞かれないのですか?」
「うん、マキナは仲間だからね」
「『仲間』.....戦闘が終了し次第インプットいたします」
そうして、ホワイトさんがまとめる。
「オーケー、お前ら三人は雑魚狩りを頼むぞ」
「ホワイト殿は?」
「『仲間』のサポートをしてやらなくちゃな」
「左様ですか....」
「........うむ」
「ホワイトさん、マキナを頼みます」
「おうよ」
そうして、血戦の火蓋が切られる。
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