第二百六十五話 ロボと詩人
リイはマキナの隣へと腰掛け、穏やかな表情で挨拶をする
「それでは、マキナ殿よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします、リイ様」
今度は先ほどのような沈黙は発生しない。リイが座るなり、マキナはリイへと問いを投げかける。
「リイ様はご自身が人間であると考えますか?」
「ええ、私は紛れもなく人です」
「なぜそのようにお考えに?」
「ははは.....難しいことをおっしゃる方だ、そうですね......私がそう思っているから、とお答えしましょうか」
「では、人である条件とはなんであるか、ご存知ですか?」
「ふむ.......心を持っていること、でしょうか。たとえ、人の子として生を受けたとしても、心が無ければ獣と大差ない、そのように私は考えております」
リイは自身の過去を顧みながら、穏やかに微笑む。
「リイ様....その『心』とはなんなのでしょうか?」
「心とは......そうですね....例えば美しいものを見た時、美しいと言葉を紡ぐことができることでしょうか、あるいは、他者の痛みを自分のものとして受け止められることか.....いずれにしても、自分の内にはないものから影響を受けることができる者....などといった答えは如何でしょうか?」
彼の脳裏には、彼の朋友が彼が他者のために怒り、身を削る姿が映し出される。
「マキナにも....その『心』はあるのでしょうか?」
「それは貴女がご自身で考えるべきことです.....しかし、心無き獣はそのようなことには思い悩まない、とだけ付け加えさせていただきます」
「マキナには何もわかりません」
「『わからない』ということことこそが、心の根源なのです。わからないからこそ、思いを馳せる。わからないからこそ、言葉を紡ぎ、噛み締める。私に出来て、貴女にできないということはないはずです」
「マキナにできるでしょうか?」
「ええ、出来ますとも」
リイは力強く頷く。
「.......おっと、ホワイト殿がいらっしゃったようだ。私はこれにて失礼致します」
そうして、リイはその場を後にする。