第二百五十一話 臆病者の騎士様
私は彼らを見送った後、自室でメリーの髪を梳かしていた。
彼女の顔は奴の卑劣な魔術によって、醜く腐敗し、香水では誤魔化しきれないほどの悪臭を放っている。
「私の可愛いメリー.....」
なぜ、あの少年に地図を託しただろうか.....あの怪物に勝てるわけがないのに。
あの怪物が死ねばメリーは物言わぬ死体となってしまうというのに。
私は、サボテン酒を呷りながら、あの美しい日々を思い出す。
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「め、メリー!!わ、私と、その、けっ結、婚してくれないか!!!」
私は酒場の床に膝をつき、メリーへとバラの花束を差し出す。
「うれしいです!!あ、あたしも!クリスさんと、ずっと結婚したかったです!!」
そんなことを言いながら、私の花束を受け取り、私を抱きしめる。
「ほ、本当か!!」
「はい!!」
私たちは抱き合ったまま笑い泣きをし始める。
「ヒュー!!アツアツじゃねえかクリス、メリー!!」
「クリーース!!メリーちゃん泣かせたら俺がもらっちまうからな!!」
「二人の結婚を祝して乾杯!!!」
周囲の客達のヤジがこの時ばかりは荘厳な教会で神父が紡ぐ祝詞のように感じた。
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【主人公】君には見栄を張ってしまったが、私のプロポーズはそれはそれはひどいものだった。何百回も鏡の前で練習して、酒の力を借りても私の舌は緊張してうまく動かなかった。
でも、彼女は笑い泣きしながら、それを受け入れてくれた。
ああ......なんでこんなことになってしまったんだ。
彼女と私の輝かしい未来を刻むはずだったはずのこの街は、腐臭が漂う墓場になってしまった。
いつか、彼女の酒を交わしながら語り合うはずだった思い出は、私を縛り付ける鎖となった。
あの日、もっと、私が早く帰っていれば、私が神話に出てくるような偉大な聖人であったならば....
自己嫌悪が鋭い棘となり私の心を突き刺す。
「うぅぅ.....メリー、すまない、すまない、私が、私が......」
私は思わず涙を流し、嗚咽を漏らす。
そんな時、なにかが私の目を優しく拭う
「あ ゙ぁ.......く、くりす、なかないで」
彼女の瞳は一瞬だけ、生前の優しい面影を映す。
「................ああ、メリー.....やはり君は世界で一番美しい」
私をこの街に縛り付けていたのは、彼女との思い出などではなかったのだ。
臆病な私自身だったのだ。
ふと外を見ると、町中の死体が屋敷へ集結していく様が見える。
そうして、私は彼女の肩を掴み、最後の口付けをする
「メリー...どうか、臆病者の私に勇気をおくれ」
行かなくては....
救世主がいないのならば、誰が.....この街を、メリーを、そして私を救うのだ?
ーーーー私自身に決まっているだろう。
再開!!
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