第二百四十九話 蝿の王 Ⅰ
そうして、死体の波を押し退けて、俺たちは小高い丘の上にある屋敷へと辿り着く。
典型的な商人の屋敷といった感じで、貴族のものほど大きくはない。
しかし、そこはまるで屠殺場のような禍々しさを放っていた。
「んじゃ、まあ、離れな」
そういうとホワイトさんは屋敷へ向けて手を掲げ詠唱をじめる
「炎、灼け」
極めて短い詠唱と共に彼の手から豪炎が放たれ、屋敷を包み込む。
「腐ったもんは、高温で消毒しねえとな」
屋敷が炎に包み込まれ、みるみるうちに炭化する。このまま、勝負がつけば良いのだが......
「....どうやら、まだ生きているようです」
リイは聴覚で察知した情報を共有する。
そうして、屋敷の屋根を破って出現したのは軽自動車ほどのサイズの蠅だ。
「ガ、ガガ、ガ!!」
奴は気持ち悪い鳴き声を出しながらもこちらを凝視している。
「うえっ!!気持ちわりぃ!」
「......あのような羽虫がホワイトの魔術に堪えるとは考えにくいな」
「ええ、用心しましょう」
「.......では、参る」
「破ァ!!!」
義輝さんとリイが蠅へと攻撃を仕掛ける。
それは意外にも、クリーンヒットする。蠅の体の半分がぐちゃぐちゃになり、足がいくつか切り飛ばされる
「やった!!」
「なんだ!大したことねえじゃねえか!!」
しかし、
「ガ、ガガガガガ!!」
彼は何やら言葉のような鳴き声を発すると、自身の周囲に控える死体を口から出した粘液で溶かし、捕食する.....いや、捕食というよりも、吸収だろうか。
「!?」
「グッッロ!」
「ガガガッガガ!!!」
そうして、再度、蠅が号令すると。
死体が彼の周りに集まり始める。
「まずい!!」
「こりゃやべえぞ!!」
俺たちは、四人で総攻撃を行う。
しかし、
「ガガガッガガ!!!」
無情にも、攻撃を喰らった側から、蠅は再生する。
「街の死体全部があいつの残機ってことかい」
「それだけではございません....彼らは蠅を守る盾となり、私たちを穿つ矛となるのです」
「.......ホワイト、魔術で焼き払え」
「無理だ、あの量じゃあ、俺の魔力が持たねえ」
頭上に輝く赤い月が、俺たちを嘲笑うかのように輝いていた。