第二百三十八話 好事家の館
屋敷の中へと案内された俺たちは応接室で待たされていた。
「はっ!!呼び出しといて待たせるなんざどうなってやがんだ!!」
「流石にここではまずいですよ!ホワイトさん抑えて!」
二人はというと部屋の調度品についての話をしている。
「.......ほお、素晴らしい調度品の数々ですね、かなり趣味がよろしいようだ」
「.........豪商の屋敷のようで落ち着かんな」
そんなとき、部屋の扉が開き。貴族らしき男とその護衛騎士が入ってくる。
「よくきてくださいました。我が名はブルーバード辺境伯家当主、ヒッピアス・ブルーバードでございます。」
そう名乗った男は口髭を蓄えた痩身の中年男性で、丸メガネをかけた男だ。どことなく、親近感を感じるのはなぜだろうか。
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
「お初にお目にかかります」
俺とリイは立って挨拶をするも、義輝さんとホワイトさんは座ったままだ。彼ら.....特に義輝さんはプライドが許さないのだろう。
護衛騎士の目が怖い。
「ちょ、ちょっと!二人とも!」
「お気になさらず」
ヒッピアスは鷹揚に応じると、俺たちの向かいへ座り、話始める。
「貴殿らの活躍....騎士や民からお聞きしました。この地の全ての住民を代表してお礼を申し上げます」
そういうと、彼は立ち上がり頭を下げる。
「そ、そんな!」
「これは....まさに君子の姿です...」
そんなヒッピアスの姿を見た、二人も態度を軟化させる。
「へえ....わかってるじゃねえか」
「......ほう」
「さて、この件のお礼ですが.....」
そうして、ヒッピアスとの交渉の末、かなりの額の報酬を受け取ることとなる。
そうして、俺たちは雑談を行うことになる。
「....ところで、貴殿らはブルーバードの騎士として働くつもりございませんか?庶民では手の届かぬ厚遇を約束します」
ありがたい話だが、これを受け入れるわけにはいかない。
「ありがたいお話ですが、俺たちには為すべきことがございますので、お断りいたします」
「私も同様に」
「わりーが俺もだ」
「.......無論、私もだ」
「残念です.....ただ、いつでも歓迎いたしますので..........」
そんな、彼は一瞬驚いたと思うと、視線を義輝さんへ注ぐ。.......厳密には彼の腰だが。
不審に感じたリイが尋ねる。
「ヒッピアス殿....どうなさいましたか?」
「い、いや...その腰の刀...見せてもらっても?」
「........構わん」
そうして、義輝さんは刀を抜き....ヒッピアスに手渡す。彼は手袋をはめ、それを下賜された家臣のような手つきで受け取るとじっくりと鑑定し始める。
「なんて素晴らしい.........銘は?」
「............童子切安綱だ」
「ドウシギリヤスツナ?お恥ずかしながら存じ上げませんな、ただ、この刀身、歴史にも名を残すほどの職人によって打たれたに違いありません...............失礼を承知で申し上げますがこちらを売っていただくことは可能でしょうか?いくらでもお支払いいたします」
「......ならんな」
「でしょうな....このような名刀もあなた様のような武人の手でこそ輝くと言うもの.....私のような好事家の手で錆びるべきではございません」
「......ほう、わかっているではないか」
そうして、俺たちは屋敷から出る
帰り道、俺はこのおじさんからした親近感の存在に気づいた。この人....オタクなんだ。