第二百三十七話 名も無き祈り
戦いは終わった。
俺は、陽光に照らされる翼王の死体を見る。
「........おまえも俺たちと一緒か」
この王もまた、俺たちと一緒なのだ、不可思議な力をある日突然与えられ、理不尽な強者と戦う羽目になった。
そもそも、彼らがこの街に侵攻するきっかけになったのは.....いや、これ以上はダメだ。たとえ、誇り高くても、悲惨な運命であっても、彼らは敵なのだ。
せめて、この後、彼が本物の楽園へ行けるよう、俺はベッラマーニとかいう女神様に祈ってみる。
そうして、俺たちは駆けつけてきた騎士団にあとは任せ、宿へと戻る。
街の外縁部に位置する俺たちの宿は幸い無事だった。
ちなみに、義輝さんは宿へ入る前にホワイトさんの水魔術をぶっかけられていた。
そして、翌日の昼...俺たちはこの地の領主であるブルーバード家の屋敷に呼び出されていた。
「ったくよお...礼をしたいんだかなんだか知らねえが、自分達が来いよなあ」
「.....気持ちはわかりますけど、そういうのって口に出さない方がいいんじゃないですか?」
「はっ!ったくよお、貴族様ってのはイケすかんなあ....高貴な連中ってのはなんなのかねえ...自分勝手っつうか」
「.........悪かったな、自分勝手で」
そう言い放つのは不機嫌な顔した義輝さんだ
「い、いや、そういうつもりじゃねえんだ」
「......そうか?私には『そういうつもり』に聞こえたがな」
それをきいたホワイトさんは、彼の機嫌が悪い理由に思い至る。
「昨日、水ぶっかけたことなら謝るからよお」
「.......薄っぺらい謝罪だな」
「勘弁してくれよお...」
「はっはっはっ!!お二人は本当に仲がよろしい!!」
「はは、リイの旦那...冗談きついぜ...」
そうして、街の中心部へ至る。
街の人々は俺たちへと手を振ったり、そこかしこから俺たちを讃える黄色い声援が聞こえる。
.....ちょっと気分いいかも。
「キャー!!剣士さん!こっち向いてーーー!!」
「剣士さん!!視線ちょうだーーい!!」
「きゃー!!あたし今、目があったわ!!」
「違うわ!!私よ!!」
...........違った。義輝さんだけだ。
「足利殿はご婦人方の声援を独り占めしてらっしゃいますね」
「ケッ!!こんな脳筋どこがいいんだか!!」
「義輝さん、手とかふり返してあげたらどうですか?」
「......くだらん、見れば街の主婦がほとんどだ。奴らは夫への操はないのか」
義輝さんらしいことをいうが、「推し」と家族は違うのだ。
「『推し』は理性じゃ語れないんですよ.....」
「.......一向宗のようなものか」
義輝さんは俺の説明に、納得(?)してみせる。
そんな俺たちへの同情なのか、野太い声援が響く。
「坊主ーー!!お前が敵のボス仕留めたのみてたぞーー!!!」
「獣人の兄ちゃん!!!瓦礫の下から助けてくれてサンキュー!!!」
「魔術師さんもありがとなー!!」
.....まあ、これはこれでいい気分だ。ただ....
「おい、俺だけ具体的なエピソードがねえぞ」
今度はホワイトさんが拗ねる。
「まあまあ、普通の人たちはあんまり魔術に馴染みがないんですよ」
「【主人公】さんのおっしゃる通りです。それに、あなたの活躍は我々がよく知っております」
「.......あの女共に、お前への声援を送るよう命じるか?」
義輝さんがまた、天然発言を.....いや、ちがう。この人、ホワイトさんを煽ってる。
「余計なお世話だっつの!!!」
そんなとき、俺たちの前に一人の少女が現れる。その子は金髪をおさげにした小学生くらいの女の子だ。
俺はその娘に見覚えがあった。昨日、顎獣から助けた少女だ。
そして、顔を真っ赤にして何やらモジモジしている、と思えば
「騎士のお兄ちゃん!!あ、あの....これ、受け取ってください!!!」
俺に何か袋のようなもの渡すと、そのまま走り去ってしまう。
「ちょっ!まって!......行っちゃった」
俺は、その袋を開けてみる。そこに入っていたのは小さな玩具の指輪だった
「........これは、ゆび、わ?」
それをみたホワイトさんは、急に元気を取り戻しニヤニヤし始める。
「へえ....小僧、おめえもスミにおけねえなあ」
「いや、スミって....リイさんもなんか言ってくださいよ!!」
「.....南蛮では、婚約の申し込みに指輪を贈る習慣があると聞いたことがあります」
「ちょっ!!リイさんまで!!」
「...........ふっ」
「義輝さんも笑ってないでなんとか言ってくださいよ!!!」
そんなこんなで、俺たちはブルーバード家の屋敷までたどり着く。