第二百二十九話 翼を伸ばす
「火鉢」での飲み会の翌朝、二日酔いに苦しむ相棒.....ホワイトを見た【剣豪】は呆れ返っていた。
「ぐあああ!頭痛ええええ!割れそうだ!」
「........はあ、今日はどうするんだ?もうすぐ、奴らが来るぞ」
「今日は、休養!各自自由行動だ!!いいな?」
「......わかった、伝えておく」
【剣豪】はため息をつきながらもそれを受け入れる。このようなことは一度や二度ではない。それにいちいち目くじらを立てていては、こちらが疲れてしまう。それは彼がこの二年間で得た重要な教訓であった。
【主人公】とリイへそのことを伝えた【剣豪】は壁に立てかけてあった刀を手に取ると街へと繰り出すことにする。
「......ホワイト、私は少々街を見て回る」
「オーケー、俺はここで拠点を守っておく」
そう言うや否やホワイトは毛布を被る。
「........はあ、この男は」
【剣豪】はそうして宿を出る。
アルトーレの美しい景観を尻目に彼はほんの気まぐれでこの街の市場へと向かう。
そこは、湖で水揚げされた魚介や、剣に雑貨といった様々なものが集まるまさに、蚤の市といった様子の場所であった。彼は露天商が並べる刀や武具を物色しながら時間を潰す。
それに飽きた彼は、今度は昨晩、盾獣の死体を売買した密売人がいた裏通りへと向かう。そこは、アルトーレという街の影とも言えるような場所で整備された景観とは裏腹にそこの住む人間の人相は悪い。
「.......陰日向、といったところか」
そんな彼の耳が女性の悲鳴を察知する。目をやると、若い女性の行商人がチンピラに絡まれていた。
「.......くだらん、だが..退屈凌ぎにはなるか」
ここでの穏やかな日々は確かに彼のささくれだった心を和ませた、しかし、彼のうちに眠る闘争本能は平穏をよしとしない。彼は、刀を鞘から抜き放ち、チンピラへと切り掛かる。
ものの十数秒でチンピラを片付ける。
「.......安心しろ、峰打ちだ」
そんな【剣豪】に行商人の女が駆け寄る。
「あ、ありがとうございます!!あ、あの、私は行商人をしております....レイラと申します!ぜひ、お礼の方を....」
「.........礼ならば要らぬ......私はもう行く」
【剣豪】の並々ならぬ威圧感に気圧され、行商人の女は彼を見送ることしかできない。
「あ、ありがとうございましたーーー!!」
そうして、【剣豪】は振り返らずに立ち去る。
そんな、彼の瞳がアルトーレの青空に映る無数の獣の影を捉える。
「.......ほう、おもしろくなってきたではないか」
【剣豪】は顔に笑みを浮かべると、街の中心部へと向かって駆け出す。