第二百二十七話 「火鉢」を囲んで
街の陰に潜む密売人に素材を売っぱらった後、俺たちは今日の反省会を兼ねて、食事をとることにした。
「.....あんないかにもな品買う人いるんすね」
「そりゃな...太古の獣の死体だなんて好事家からしちゃあ、喉から手が出るほど欲しい、垂涎の品さ」
「.....ふむ、茶器のようなものか」
「.....どのような時代や場所であっても人の抱える欲というものは変わらないのですね」
そうして、俺たちは今回食事をする店へと辿り着く。
選んだ店は、アルトーレ屈指の魚介料理を提供する「火鉢」。これは、何を隠そう...義輝さんの提案だ。
店内は、アルトーレの洋風な雰囲気に似合わず、どこか和風であった。店員の話によると店主がヤマト出身らしい。
席には、囲炉裏のような設備がある。
「.....ろばた焼きですか」
「へえ....【剣豪】にしては趣味がイイじゃねえか」
「....これは、ここで食材を焼くのでしょうか?」
「そうですよ...食べ物に炭の香りがついてうまいんです!」
「....ほう、それは【主人公】さんの故郷の食事でしょうか?」
「はい!.....とは言っても俺は食べたことなんてないですけど。お二人は?」
「俺もねーよ」
「........私は一度、伊勢で食したことがある」
「ほう...では、足利殿に作法を教わらなければなりませんな」
「.........座って、焼き、食す。それだけだ」
そうして、俺たちは席へと着き、食事を始める。
食材は、湖の貝やニジマスといった日本のろばた焼きではあまりみられないものだ。他にも、ヤマトから仕入れたという米の酒などが提供される。
「随分と珍しい食材ですね....」
魚介といえば海!と言う環境で育った俺は少し違和感を覚える。
「そうなのですか?」
「ええ」
「.......言われてみれば、伊勢では蛤や海老が供された......おい、そこの、蛤や海老はないのか?」
義輝さんは、近くを通りかかった店員へ声をかける。彼のぶっきらぼうで権力者然とした物言いに、彼が怒っていると勘違いしたのだろうか。
「もももも、申し訳ございませええん」
などと言いながら、逃げていってしまう。
「.........どうなっているのだ」
そう言いながら、少しだけ傷ついた表情をする義輝さんに俺たちは吹き出してしまう。
「ぷっ...あっははっ!!すいません、義輝さん...でも、めっちゃおもしろくて」
「はっはっはっ、少々あの方が不憫ですが...本当に愉快です!」
「お前!どんな風に生きたら、店員がビビって逃げ出すような男に育つんだよ!!」
「.................五月蝿い」
義輝さんは少しだけ嬉しそうに言い放つ。
「まあ、残念だが、蛤や海老なんかはねえだろうな....そういうのは海の食いもんだからな。淡水湖じゃとれねえ」
「.......ほう、そうなのか」
義輝さんは少し残念そうな顔をする。
「ああ....まあ、いいじゃねえか、ここの食いもんは酒に合う!」
そう言うホワイトさんは既に一升瓶を一本開けそうな勢いだ。......どんだけ飲むんだよ。まだ食事が始まって三十分くらいだぞ。
今回は四人全員が酒を飲んでいたと言うこともあり、宴会としての側面を強めていく。
そうして、中身のない雑談を燃料に夜は深まっていく。
よくみると、四人全員が箸を使って食事をしている。
そんな光景を見てなんとも言えない気持ちになった。