第二百二十話 季節の葡萄タルト〜生ハムを添えて〜
俺たちは今まで戦った強敵や訪れた街について情報交換を行なっていると、注文した料理が届く。
「こちら、葡萄タルトとお飲み物になります」
「ほう...これがタルト...私の故郷の唐で食した『餅』に似ていますね....」
「甘くて美味いんですよ!!」
「それは、楽しみです....」
そうして、配れられた葡萄タルトと飲み物とは別に、生ハムらしき食べ物がある。
それを義輝さんが指摘する
「......この肉料理、注文した覚えはないぞ」
「い、いいいいえ!こ、こちらの、生ハムはタルトの一緒に食べていただくものですので!」
「.....ほう、わかった」
「へえ....生ハムなんて酒に合いそうなもん出てくんなら、酒にすりゃよかったな」
「...........ホワイト、これから話し合いをすると言うのに酒を飲む気か?」
「の、飲むわけねーだろ」
「それでは、いただきましょうか」
「おうよ!んじゃあ、異邦人の邂逅を祝して乾杯!!」
そうして、各々がそれぞれの流儀でそれに応じる。
そうして、乾杯の言葉とともに俺たちは食事を始める
「こりゃうめえな!葡萄タルトっつても甘さは控えめだな、たしかに付け合わせの生ハムによく合う....って、おい!【剣豪】!!肉食わないからって俺の皿に乗せるな!」
「.......下賜である」
「『下賜である』じゃねえよ!ったくよお....」
「お二人は長年連れ添った朋友のようだ.....」
「そうでもねえぜ、二年やそこらの付き合いさ」
「でも、仲が良いってのは否定しないんですね!」
「この葡萄、渋みが少ないな....品種改良で手を加えてるのかもな.....」
あ、無視しやがった。
「.......かつて甲州の武田が献上してきた葡萄とは異なり、自然な甘みがある......実に雅だ」
「ああ、お前が褒めるのも頷けるな....この街の文化水準の高さが窺えるな」
「確かに美味しいですね!コンビニスイーツなんて目じゃないくらいですよ」
「たしかに、大量生産した食いもんには出せねえ味わいだ.....にしても、『コンビニ』なんて言葉を他人の口から聞けるなんてな.」
「たしかに、リイさんも義輝さんもコンビニなんてない時代の生まれですもんね」
「そうそう、日本にいた頃の話なんて一ミリも通じねえからな....」
そのまま、俺とホワイトは日本のジャンクフードの話で盛り上がる。
一方リイと義輝さんは
「........リイと言ったな、お前の武術.....どこで学んだ?」
「故郷の村で習いました。健全な精神は健全な肉体に宿りますので、官吏たるもの肉体を鍛えることも重要なのです」
「....ほう、素晴らしい心構えだ、ぜひ、いつか死合いたいものだ」
「その際はお手柔らかにお願いいたします」
彼らはそのまま、武術トークへと花を咲かせる
しばらく、話し込んだのち、ホワイトの号令で情報交換へと路線を戻す。
「オーケー、アイスブレイクはここまでにして、今まで戦った連中についてまとめるぞ」
「まずは、小僧どもが戦った連中.....ある日突然不思議な力に目覚めて、精神に異常をきたした.....俺たちが戦った騎士団やアーサーにそっくりだな、奴らや俺たちがもってる『ギフト』に関して、あの悪魔野郎が一枚噛んでるとみて間違いない、これに異論はないか?」
その問いに対して、リイが手を上げる
「.......ホワイト殿、あなたのおっしゃることに異論はございませんが、あなた方のギフトについてはまだお話を伺っておりません、お聞かせいただいても?」
「ああ、そういや言ってなかったな......俺のものに関しては説明が難しいからな、明日..獣相手に実践してみせると約束する.......【剣豪】に関してなんだが、わかんねえんだ」
俺はその発言に思わず声を上げる。
「え!?わからない?」
「ああ....なにかしらあるとは考えているんだがな、どうにもこいつに自覚はないらしい......ただ、こいつの日本での享年と今の肉体年齢に若干の乖離が見られるってのが絡んでんのは間違いねえだろうが.....」
「.......異能の力などなくとも、敵は刀できれば死ぬ、問題はない」
「って、感じだからなあ、こいつも....まあ、俺やあんたらがギフトを自覚した出来事なんかを再現しながらいろいろ試してこうって感じだな」
「.....成程、承知しました」
「んじゃ、話を戻すが、俺たちの目的は『悪魔野郎の痕跡を追って、殺す』だ。あんたらの掲げる『小僧の未来への帰還』っていうのとは、ちと、異なるが....とりあえずはいいだろ」
「どんな目的を掲げるにしろ『痕跡を追う』ことは必須ですもんね」
「そういうこったな、まあ、この問題に関しては先送りだ」
「......それで、あなた方は何か行動の目処は立っていらっしゃるのでしょうか?」
「おうよ!当面は南方にある『クローバー』っつう街を目指す」
「『クローバー』......聞いたことがございます、その街には世界最高の図書館があると....」
「リイの旦那が今言った、図書館を目指す。半年近くかかる巨大プロジェクトだ.....乗るかい?」
「はい!協力させてください!」
「私も助力させていただきます」
「よし!、決まりだな......じゃあ、今日のとこは一旦解散して.....明日の朝、近所の森の魔物相手に力試しといこうや」
「わかりました....では、また明日!」
そうして俺たちは会計を済ませ店を出る。
そのまま、船に乗り、宿の前へと向かう....四人一緒に。
そうして、チェックインを済ませ、四人で階段を登り、部屋へと向かう。
俺たちの部屋は隣同士だったのだ。
「........っておい!!いつまでついてくんだよ」
「こっちのセリフですよ!!」
「まさに、運命でしょうか.....」
「.......ふむ、私たちはこれほど近くにいながら、互いを探し回っていたわけか....実に滑稽だな」
「はあ....どんな確率だよ」
「でもよかったですね.....もし宿で鉢合わせしてれば、そのまま殺し合っていてもおかしくなかった」
「はっ!!!確かにな......神に感謝でもしとくか」
そうして、俺たちは部屋へと入ってゆく。