第二百十八話 「魔法」の再現可能性と科学的アプローチ
俺の名は.....まあ、ホワイトでいいだろ。俺にも日本人的な漢字で構成された名前はあるわけだが、まあ、いいだろ。ちなみに、この顔は、母親がイタリア人だったからな、ホワイトっつう偽名に上手く馴染んでくれた。
んじゃ、俺の生い立ちについてだが、結構金持ちの家に生まれてな両親も仲良い方だったな。
まあ、そのせいで、過度なプレッシャーがかかってたのはあるが.......まあ、小僧やリイの旦那に比べりゃ相当幸せだったさ。
そんな環境で何不自由なく育ったガキの俺がハマったのはファンタジーの世界だ...とはいってもライトノベルみてえなファンタジーじゃなくて..アーサーやシャルルマーニュの伝説や、ナルニア国物語にハリーポッターみてえなリアル寄りの作品だ。今思えば、ガキの頃からリアリストだったわけだな。
俺はそんなかでも、魔術師マーリンや、アストルフォがもっていた魔法の道具、ナルニア国物語やハリーポッターの不思議な魔法の世界観そのものみてえな「魔法」に憧れたんだ。
物語の中の不思議な力はどこからともなく現れて、理不尽な現実をやっつけてくれる。
それが痺れるくらいかっこよかったんだ。そんで、俺は「魔法」についてもっと知りたいと思った
....いや、違うな。「俺も魔法を使いたい」そう思ったんだ。
だから、俺は学生時代必死こいて勉強して名門大学に入ったよ.....たぶん小僧も知ってるとこさ。
ま、大学の名前なんてどーでもいい。その後、大学に入った俺は必死こいて「魔法」について研究した。まあ、おかげでダチなんざ一人たりともできなかったけどな。
そんで、俺はその歴史や伝説なんかが記された文献を読み漁るタイプじゃなかった。
俺は、その魔術を科学的に再現しようと試みたんだ。
専攻は物理学だったが、化学に気象学、生物学、医学、心理学や歴史学なんかについても必死に勉強した。
.....まあ、幸い...俺の脳みそのスペックは他の連中のものよりも随分良かったみたいで、そういった知識をスポンジのように吸収した。俺は学内でも結構優秀で、一年早く大学院へ進む「飛び級」を認められた。
.............大学院へ進めばもっと研究ができる。
だから、大学院へ進んだ。そこでも、「魔法」についてはなにもつかめなかったが....幸いなことに、教授に気に入られて、卒業後は引き続き大学にいれることになった。
俺は大学を卒業してから、今まで以上に研究に取り組んだ。寝食も全て研究室で済ませ、睡眠時間以外は全てを研究に注ぎ込んだ。
「魔法」の再現なんて、アホみてえな研究...だれもがバカにした。
仲間からは「優秀だが、要領の悪い男」
上司からは「才能の無駄使い」
親からも「何をしているかわからない息子」
クソみてえな言われようだったよ......だが、俺にはそんなことはどうでもよかった。
俺はまず研究の第一歩として、古典的な「魔法」の再現を試みた。
魔法とは、本来は狩猟採取の時代の雨乞いの儀式を原型としたものだと言われていたのは、有名だ。
日本の陰陽術なんてのも、そういったもの起源を持つんだぜ。
だから、天候をスイッチ一つで操作する装置.....それが、俺の研究の第一目標だった。
そんで、研究を始めて半年ほど経ったある日、ついに装置のプロトタイプが完成した。
理論は完璧だった。この装置は完璧だという確信があった。
初めて魔法に憧れてから、二十年が経っていた。
俺は、その装置の最終実験をすべく睡眠時間を削って資料をまとめていた。
この実験で成果が認められればより多くの予算が降りて、俺の夢は現実的な輪郭を帯びる。
そんな上司や同僚連中の前で行うその実験を翌日に控えた日の夜.....それは起こったんだ。
俺はその日、自分への労いを込めて、近所のファミレスで食事をとるべく外出していた。大学の外に出るのなんて、実に三年ぶりだった。
飯を腹一杯食って、大学への帰路に着く。その日は、晩夏だってのに妙に肌寒い日だったな
そんなとき、俺の背中に激痛がはしった.....振り返るとそいつはよくいる通り魔だった。
ただ、通り魔の野郎....悪魔みてえなツラして笑ってやがった。
そんで、俺は死んだ。
笑えるよな、俺の最後の晩餐....ガストのチーズインハンバーグだぜ。
結局、俺の研究成果も有耶無耶になっちまったしな......
まあ、そんで、三年ほど前にこの世界に転移してきたって感じだな