第二百十六話 館内ではお静かに願います
そうして、俺たちは互いに睨み合う。
リイは洗練された武術の構えをとり、暴力そのものへと形を変える。
それに応えるように、【剣豪】も刀を構え、殺意の塊へと変貌する。
俺の目の前のホワイトもニヤニヤ笑みをうかべながらも魔力は膨張し、今にも魔術が放たれそうだ。
俺もまた、いつでも反射できるように、目を見開いている。
そして、周囲の空気が張り詰める!!!
......直後!!俺たちは一斉に激突.....
「おい!!!貴様ら!!!何をしている!!このブルーバード家の管理する美術館の中での私闘はかたく禁じられている!!」
気づいた時には、俺たちの周囲はブルーバード家の騎士団に取り囲まれていた。よくみれば、周囲には人だかりができており、学芸員や客が集まってきている。
その騎士の隊長らしき人物が俺たちへと声をかける。
「貴様ら....この神聖な場で、戦いを始めようとしたな?ことと次第によっては....」
即座にホワイトが、その男へと詰め寄り、周囲へと見えないように皮袋を渡す。
「騎士様....勘弁してくれよ、ちょっっっと、今度の依頼の報酬の分配方法で揉めただけなんだ!」
騎士はあっさり引き下がる。おい、それでいいのか騎士様.....
「そ、そうか、今回は、これで勘弁してやろう....ただ、今後このようなことは外でやれ!!」
「へへ、どーも」
そうして、俺たちは、駆けつけてきた職員さんにこっ酷く叱られ、出禁を言い渡される。
「はあ、そういえば、ここ美術館の中でしたね......」
「はは....そりゃ、すぐに騎士どもがすっ飛んでくるわけだ」
「.........ただ、あの男、武士の風上にもおけんな」
「いつの時代も権威を振り翳し、規範や正義を謳う人間ほど腐敗しているものです」
俺たちは、勢いを削がれてしまい、ただ、立ち尽くす。
いまならば、穏やかな対話ができるかもしれない、リイの方をチラリと見ると、彼も頷いてみせる。
「あ、それなら!この近くにあるカフェでお茶しませんか?」
一瞬、【剣豪】は俺の瞳を見つめるとすぐに、ホワイトへと向き直る。
「ああ、いいぜ....【剣豪】もいいな?」
「...........かまわん」
そうして、俺の案内で美術館近くのカフェへと歩き始める。
.......そういえば、あの人だかりの中に、俺たちにピグマリオについて教えてくれたお姉さん、いなかったな。
そりゃね、美術館で殺し合いが始まるなんてことはないっすわな