第二百七話 湖畔のレストラン 前編
船を降りた俺たちは、レストラン『フィッシャーマン』のテラス席に腰掛けていた。船の漕ぎ手に聞いた話だが、アルトーレで一番美味いとの太鼓判を押していたのでぜひとも、食べてみたいと訪れたのだ。
パラソルの影が程よく日光を遮る。
陽光を反射してキラキラと輝く水面を見ながら、これまでの冒険をリイと振り返る。
「.....ここまで、激動の毎日でしたね」
「ええ、ですが、私にとっては人生で最も満たされた日々でした」
「.....『真の楽しみは苦しみの中にこそある』ってね」
「それは?」
「俺の故郷の高杉晋作って人の言葉です。初めて聞いた時は、まったくわからなかったんですけどね.....」
「言い得て妙ですね」
「それにしても、コゼットとルーナは元気にやってますかね」
「ええ、あのお二人はどこであろうとも気高く生きておられるでしょう」
「今頃、俺たちの叙事詩を書いてたりして.....」
「ははは、物語に登場する英雄とはかけ離れていると自負しておりましたが....案外いい気分なのですね」
「謙遜はよしてくださいよ、リイさんは俺の『ヒーロー』ですよ」
「貴方こそ、私の心の救世主だ」
「じゃあ、俺たち二人ともヒーローですね!『俺たちは二人で一人の仮面ライダーだ!』って....はは」
「仮面ライダーとは?」
「えーっと、何て言うんですかね、まあ、俺の故郷で流行してた英雄譚みたいなものです」
「.....興味深い、ぜひともお聞かせ願いたい」
「いいですよ、まず....仮面ライダーっていうのは..................」
心の奥が暖かい。日本にいた頃よりも辛くて苦しい生活をしているはずなのに、不思議と今の方が満たされている。