第二百話 三人市虎をなす
第二百話にふさわしいエピソードをかけて良かったです
私は、覚悟を決めて自身の獣性の扉へ手をかけます。抗い難い暴力衝動が体を駆け巡りますが必死にそれに抗います。
私の背後で、ロックさんが魔術を行使して金剛虎を足止めしている声が聞こえます。そして、私の目の前には【主人公】さんがいます。彼は、もし私が獣性に飲まれたときにロックさんを守るために、私の前に立ちはだかります。
臆病な自尊心によって形作られた虎が私の理性を殺さんと牙を剥きます。もうすでに、体の所有権は獣に乗っ取られつつあります。
......ああ、やはりダメでしたか。
既に私の理性は、全身を鋼にした暴力の化身が破壊の限りを尽くすのを傍観することしかできない。ロックさんが念の為に、【主人公】さんにつけた岩人形を蹂躙します。しかし、それを止める術を私は持たない。後、数秒もすれば私の爪は彼の体へ届いてしまいます。
しかし、彼は逃げるそぶりも反射を発動する素振りも見せません。魔力も隙も十分にあるはずなのに。
お願いです、逃げてください.....お願いします、私を信頼しないでください。
しかし、彼は私へ微笑みかけると口を開きます。
「いつか、言ったでしょう?『仲間を傷つける人がどこにいるんですか?』と」
........ああ、やはり、貴方は非合理で.....どこまでもお優しい。
そうだ......私は詩人、李徴子だ。私は、獣ではない、貴方の.....【主人公】さんの朋友なのだ。
そうして、私は獣性へと再度抗います。
私が獣性などに負ける謂れはない、なぜなら私は人なのだから。
三人市虎をなす:《三人までが市に虎がいると言えば事実でなくても信じられるようになるという「戦国策」魏策の故事から》事実無根(と言われる)の風説も、言う人が多ければ、ついに信じられるようになることのたとえ。