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第百九十一話 インスタントな信頼

そうして、リイが魔物を蹴散らしながら先へと進む。途中、飛んできた破片から目を守って手に傷がついてしまったが、治癒魔術は使えないので放置する。....感染症とか怖いな。この世界でそんなもんかかったら冗談抜きで死ねる。


そうして、地図の地点に到着すると、砕け散ったエメラルドの中心部に、ロックが佇んでいた。

「.....よかった、生きていたのか」


「ええ、よかったです」


そんな俺たちをみて、ロックは無愛想に口を開く。

「君たちは....!!あいつらに話を聞いて遺品でも漁りにきたのかい?残念だが....え?」

俺たちは、ロックの腰巾着から話を聞き、ここまできたことを話す。

「.....まあ、助けに来たとはいっても、どの道奥へ行くつもりではいたんだけどね」


「ええ、ですがこれほどの獣を単独で討伐するとはかなりの実力をお持ちのようだ....我々の助けなど不要でしたね」


「ははは、まあ、天才魔術師である僕にかかればこの程度なんてことないさ」


「それで、どうする?俺たちはこの先へ進んでここの主を殺す」


「........僕もついていく」


「わかった、リイさんもそれでいいですか?」


「私はかまいません」

するとロックが口を開く。

「ただし、条件がある。これ以降、迷宮で得たものは僕と君たちで折半だ。これは譲れない」

まあ、共同で仕事をする以上は当然だ。ただ、この迷宮の中には桁違いの価値を持つ品々が多く眠っている。俺たちだって慈善事業じゃないんだ。路銀は多ければ多いほど良い。

「....俺とリイさんとあんたで三等分というのが筋では?」

たしかに、パーティ同士の協力では、メンバーの頭数ではなく、パーティの数で報酬を分配するのが暗黙のルールだが、得体の知れない魔術師に背中を預ける以上、生半可なリターンでは応じるわけには行かない。

「それでは、僕の取り分が少なくなる。これは譲れない」


「俺たちは二人だけでも先に進める、嫌なら交渉決裂だ」


「ええ、こちらの取り分を減らしてまで貴方と共にゆく合理性はありません」


「僕も金が必要なんだ。それに、黒髪のお前、支援術師だろう?それに、治癒魔術が不得手なんじゃないか?」


「.....いいや、普通の魔術師だ。それに治癒魔術も使える」


「嘘だね、......実はこの迷宮の獣は魔術に対して脆いんだ。そして、ここまで二人で来れる獣狩りの魔術師なら当然この事実に気がつき、魔術戦で片をつけるはずだ。ただ、前衛の獣人の服がかなり汚れている。これは、この迷宮の獣どもを殺した時に飛び散る破片だ。それに、君の魔力もあまり減衰していない。このことから導き出せるのは、ここまでの戦闘の大半をそこの獣人が担当しているということ。すなわち、君は攻撃魔術を使えない、支援術師ということだ。それに、君、手の甲を怪我してる。感染症のリスクも考えれば些細な傷であっても治療するのが基本だ。それをしないということは、治癒魔術も使えない...........どうだい?」


こっっっっわ。図星じゃねえか.......まあ、ギフトなしで俺やリイに並ぶ戦闘能力ってことはこういうことか。ただ、なおさら、警戒しなければならない。リイはああ言ったものの、ギフト持ちではないからといって、黒幕の手先でないとも限らない。

「仮にそうだとして、それがどうした?俺たちがここを二人で踏破できるというのは見栄でもなんでもない客観的な事実だ」


「ああ、だろうね。君もそこの獣人も並大抵の実力じゃない。ただ、僕がいれば便利だぞ?」


「便利とは?」


「僕は治癒魔術を使えるし、ここの魔物を魔術で仕留めることができる、それに、水属性魔術が使える。水筒の分、荷物を軽くして、その分宝石を持ち帰れる。....さらに宝石の売買に関しては僕の伝手で相場以上の額を得られることを保証する....どうだ?」

そう言いながら、ロックは詠唱をして水を出してみせる。............正直言って戦力は多いに越したことはない。


「......図星だよ、あんたの話に乗ろう。リイさんもそれでいいですか?」


「ええ、貴方が決められたことならば」


「.........随分と信頼し合っているようだが、家族には見えないな、長い付き合いなのか?」

話がまとまったかと思えば、ロックは変なことを聞いてくる。突拍子にない質問に俺は呆気に取られてしまう。それに応えるのリイだ。

「いえ、出会って一月程です......当然家族でもございません」


「.......ほう、そんな短い時間でよくもそこまで信頼しあえるな」


「人と人との信頼は時間では決まりません、魂同士の共鳴なのです」


「よくわからんが、うらやましいな............まあ、気を取り直して...黒髪、手を出せ。傷を治してやる」


「ああ、どうも」


「女神よ、我が同胞に慈愛の口付けを、癒しの願いを」

そうして、俺の傷がみるみるうちに塞がってゆく。

「ありがとうございます」


「礼はいい....改めて、僕はロック、天才魔術師だ」


「俺は、【主人公】.....支援術師だが前衛で戦う」


「私はリイと申します、短いお付き合いですがどうぞご贔屓に」


そうして、俺たちは迷宮を進む。先はまだまだ長いのだ。



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