第百八十八話 裸の王様 Ⅲ
未踏破エリアといっても、僕たちはこの街一番の腕利きである。ゆえに、大した苦戦をすることもなく順調に進んでいく。しかし、中層も中盤に差し掛かった頃、異変が起きる。
僕たちの目の前に現れたのは、この迷宮で初めて見るエメラルドのような体を持ち、大きな斧を抱えた人型の牛。ミノタウロスであった。その闘気や魔力量は今まで出てきた連中とは一線を画している。手下どもは震え上がってしまっている。
ただし、僕は冷静に手下へ足止めの指示を出し、魔術を練り上げる。魔術さえ発動すればこんなやつどうということはない。問題はない。
.....一つ誤算があったとすれば、手下の剣士が根性も倫理観もない連中だったということだ。たっと数度の攻防で、力の差を実感するや否や、逃げ出してしまったのだ。しかも、僕を置いて。ハナから期待こそしていなかったが、命の危険が迫っているという状況で頼みの綱の前衛二人が消えるというのは僕の心を砕きかけた。
しかし、迷宮の獣にそんなことは関係ない。さっさと逃げ出した剣士には目もくれず、残った僕へと襲いかかる。
魔術師として、素の身体能力はそれほどでもない。彼らとは違い、逃げ切れないだろう。僕は、死を悟って目を閉じる............ふと、僕の脳内に浮かぶのは僕をあざ笑う街の獣たち、僕を庶民と呼び手のひらを返す貴族ども。
反射的に僕は横っ飛びで斧による一撃を回避する。
そうだ.....こんなところで、
「こんなことで、死んでたまるかよ」