第百八十六話 裸の王様 Ⅰ
僕の名前はロック。天才魔術師だ。もともとは、貴族の四男という裕福な生まれであった。しかし、僕の家は一代貴族であったため父の死と共に、没落した。一代限りの爵位であるという現実から目を背け一時の享楽に耽溺した兄たちは路頭に迷ってしまったようだが、僕は違った。こうなることを見越して、帝都から元宮廷魔術師を招き魔術を学んだ。二年という短い期間で火属性や水属性、治癒魔術に加え、防御力強化の支援魔術など様々な魔術を習得した僕だが、最も高いレベルで操れたのは土属性魔術であった。岩石を召喚し操る魔術。一見して地味な魔術だが、応用性という面では他の追随を許さない。僕はこの魔術で創りだした岩の人形に防御力強化魔術を施す、そうして創り出した屈強な兵隊はあらゆる障害を破壊し、あらゆる災禍から僕を守る。僕はそれを活かして金を稼ぐために獣狩りになった。実家の没落から三年の月日が経過し、二十歳になった僕はカハートという街で一番の獣狩りになっていた。多くの獣狩りが僕を褒めた讃え、僕の手下になりたいという者も現れた。ただ、僕は誰も信じない。敬愛する母君も、仲が良かった兄たちも、我が家の没落を機に父の遺産を取り合う「敵」になってしまった。だから、僕は血の繋がりのない獣狩り連中など決して信じない。信じられるのは僕自身の実力と権力だけだ。僕は、この迷宮の宝石を使って世界一の金持ちになる。そうして、父はいないけれど、母君と兄さんたちと仲直りをするんだ。
そんなときであった。
このカハートの街に妙な獣人と黒髪の二人組が来た、そしてその数日後。空が漆黒に包まれ、真っ赤な月が出現した。そうして、周囲の魔物が凶暴化した。
天才的な魔術師である僕はこの異変の原因にいち早く気がついた。金剛石迷宮の魔力の流れが滞っていたのだ。そうして、僕は手下の剣士を二人引き連れて迷宮へと潜る。彼らとて、信用はしていないものの、腕は立つ。そうして、僕たちは他の獣狩りたちからの怨嗟と嫉妬の混じった歓声を背に迷宮へと潜る