第百七十五話 ひとときの安らぎを
御者の話では一日ここで休息をするそうだ。俺とリイは安宿をとり、街の散策へ出かける。俺たちが滞在するこの街は、馬車の休憩所として発展した、所謂、宿場町というやつで、市場といったものはない。いくつかの飲食店と武具や、雑貨屋があるのみである。街を散策するものの三十分ほどですべて見終わってしまう。そんななか、ふと目に止まったのは小さな喫茶店のような店だ。俺とリイはマジカルバナナに熱中するあまり、食事をとっていなかったことを思い出し、そこへと吸いこまれていく。
店内は、ザ・純喫茶といった様相で、日本にいた頃に足繁く通った近所の喫茶店を思い出す。少し古びた木造の店内やクラシックな調度品。こういった趣向はどこへ行っても変わらないのだろう。
「へえ、なんかなつかしいな」
「ほう、このような店を訪れるのは初めてですが....心が落ち着きますね....」
そんな俺たちを出迎えるのは初老の店主。いかにも「マスター」といった風貌の男だ。
「いらっしゃいませ、旅のお方...どうぞお好きな席へ」
「はい」
「ええ」
そうして、俺たちは窓際の席へ腰掛ける。卓上のメニューはシンプルであった。
ー本日のお品書きー
FOOD
・サンドイッチ
・ピザトースト
・日替わりケーキ
DRINK
・コーヒー
・ハーブティー
・ミルク
・紅茶
俺とリイはメニューを眺め、思案する。
「サンドイッチもいいけど、ピザトーストも気になるなあ.....いやーどっちにしようか」
「【主人公】さん、このピザトーストというのは?」
「ああ、パンの上にトマトソースとチーズを乗っけて焼いた食べ物です。美味しいですよ」
「....ふむ、では私はピザトーストとハーブティーにいたします」
「じゃあ、俺はコーヒーとサンドイッチにしましょうかね」
そうして、注文を済ませた俺たちは雑談へと興じる。
「【主人公】さんは、こういったお店によく来られるのですか?」
「ええ、まあ、日本にいた頃は近所の店によく通ってました。そこのサンドイッチとコーヒーが美味しくて...」
「....ぜひ、行ってみたいものですね」
「ええ、俺また一回くらいは行きたいです。マスターまだ元気だといいけど.....リイさんはそういう行きつけのお店ってなんかありますか?」
「ええ、官吏時代に通った食堂があります。あそこの八宝菜はとても美味しかった....」
「リイさんって意外と野菜好きですよね」
「ええ、実は肉や魚よりも野菜の方が好みでして....」
「お待ちどおさん....熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
そうして、注文したものが届く。リイはピザトーストを興味深そうに見つめている。リイの頼んだピザトーストはトマトソースにチーズ、そしてサラミ、コーン、ピーマンといったオーソドックスなものだ。
「....これほど色彩に富んだ食べ物があるとは.....」
俺のサンドイッチもハムとチーズとレタスをはさんだ典型的なものだ。
「では、いただきます」
しばし、無言でそれらを食べ進める。
リイがトマトソースが口元につかないように苦戦しながら食べてるのが面白かった。
今まで食べた中で一番美味しいサンドイッチだった。