第百七十三話 あなたへ
朝、旅館の一室で目が覚める。昨晩は、ゴクラク最後の夜と言うことで盛大にもてなされた。食い物も酒もたっぷり堪能した俺たちは、今日、ゴクラクを旅立つ。孤児院の完成を見届けられないのは残念ではあるが、俺たちだって時間が無限にあるわけではない。
そうして、旅立ちの時が来る。旅館の入り口にて、ノキザルたちに見送られる。
「では、【主人公】様、リイ様.....ご達者で」
「はい!」
「ええ」
そうして、俺はノキザルヘ懐から出した手紙を取り出す。
「.....あの、突拍子も無い話なのですが....今から三百年後に『黄金の矛』という獣狩りの一団がこの宿を訪れます。彼らにこの手紙を渡ししていただけないでしょうか?」
「三百年後ですか....なるほど、ええ、お任せを、三百年後まで、この宿を守り抜き、貴方様からの伝言を受け継いでみせます」
そういうとノキザルはうやうやしくその手紙を受け取る。
さあ、やることはやった。
そうして、俺とリイは再度ロウサイ方面へ西進する。
馬車の中で俺は手紙に書いた内容を反芻する。
拝啓 黄金の矛の皆へ
俺は今、三百年前の時代にいます。なんでかはわからないけど、かならず皆の元へ帰ると約束します。この時代でも、俺はたくさんの友達に出会いました。コゼットにルーナ、スコーピオ、そしてリイさん。彼らとの戦いや冒険譚についての土産話もたくさんあるので、ぜひ楽しみにしておいてください。
ps. 俺の詳しい活躍を知りたければコゼット・バルジャンという人の書いた叙事詩を探してみてください
アンジーへ
恋人になった矢先にこんなことになってしまってごめんね。また今度会えたら、たくさん抱きしめて欲しいです。世界の誰よりも愛しています。
ゴルドさんへ
あの転移はどうしようもない事故でした。どうか自分を責めないで。そして、貴方の偉業を手伝うと決めたのに、その約束を守れなくてごめんんさい。でも、俺は三百年前でも貴方が俺にくれた「優しさ」を忘れずに生きています。
メルトさんへ
あの日の朝のお話の続きを...俺の隠し事を、今度帰ったらみんなに正直に話します。だから、それまで俺のことを待っていてくれると嬉しいです
あと、メルトさんが教えてくれた火属性魔術、役に立ちました!!
ハンゾーさんへ
ハンゾーさんにはいろいろ助けられました。アンジーとのことは本当にありがとうございます。俺が帰ったら、ハンゾーさんの故郷や前の仕事のお話なんかをお酒を飲みながら聞きたいです。
紙の値段や、手紙へとかける保護魔術の値段がかなりしたので、あまり多くの内容は書けなかったが、リイさんの推敲もあって、まあ、俺が伝えたいことはなんとか書けただろう。
あとは、この手紙が届くことを信じて必死に生きるだけだ。
第三章もラストスパートっすね