第百六十九話 蠍座の月
ああ、いまでもはっきり覚えてるぜ。あれは、三年前の蠍座の月の四日....俺の誕生日だった。
俺は当時、スコーピオンの幹部を務めていた。俺はシノギのノルマと組織の掲げるくだらん義理人情とやらの板挟みだった。それはそれはクソみてえな毎日だったよ。
そんな最中に、俺の三十四歳の誕生日が来た。
その日の目覚めは最悪だった。夢の中で敵対組織の構成員の格好をした悪魔みてえなツラした男にぶっ殺されたんだ。
だが、目が覚めると、妙な力を手に入れていたんだ。
....そうさ、このガスの力さ。孤児やチンピラへの実験を通して、この力の性質と喰らっちまった奴の末路を確認した。
そうして、俺は....組織を乗っ取ることにした。
当たり前だろ?自警団かなんかしらねえが、こんなイかれた世界で絆なんてあるはずがねえんだ。だから、俺はその足で他の目障りな幹部連中やボスをぶっ殺した。
どうやったかって?
この能力と剣を使ったに決まってんだろ。俺は結構腕が立つんだぜ?なんたって「牙突流」の免許皆伝をうけてるんだからな。
え?そんな流派知らない?
...まあ、話を戻すか、それはそれは無様だったぜ、義理だの任侠だの言ってたジジイどもが、ゲロ撒き散らかしながらくたばってくんだからよお.....。
躊躇はないのかって?
あったりまえだろ、俺はここら辺の出身じゃねえしな。
ちょっと、話は逸れるが........俺はな、とある街で金持ち夫婦の子として生を受けたんだ。見かけによらずそこそこのお坊ちゃんだったんだぜ?
んでまあ、...ありふれた話だと言っちまえばそれまでだがな.....商売に失敗した両親は首を吊った。十五の時の話だ。そんときの周りの連中の態度は一生忘れねえ....ああ、ぶっ殺してやるって意味さ。
俺はそれ以来、俺以外を信じない。殺意以外の感情を信じない。俺を突き動かすのは第四の欲求、「野心」だけだ。それがきっと、俺の原点なんだろうな。別に不幸話をして同情を買おうたってわけじゃねえさ....ただ、まあ、なんていうか..あれだ、あれ.....ったく、言わせんじゃねえよ。
それによ、親父にはイチオウ申し訳ないとは思ってんだぜ?まあ、拾ってくれたこと自体には感謝してるしよ.....まあ、俺が殺したんだがな
まあ、そんなこんなで組織を完全に掌握した俺は、これまでの路線から舵を切って、この街に溢れた汚いガキを商売に使うようにしたり、いままでは決してウチの門をくぐらせなかったチンピラどもを配下に加えた。さっきのカラムとかいう兄弟もそのうちだ。
...まあ、お前が聞きたいのはこんなとこだろ?
めんどいんでこの世界の一年は地球と一緒で十二ヶ月三百六十五日ということでお願いします。