第百六十六話 対症療法
俺は前の世界での吐き気対策を思い出す、酔い止めキャンディー、深呼吸、遠くを見る、ガムを噛む、唾液を飲み込む、ツボを押す.....しかしそのどれもが有効には思えない。徐々に朦朧とする意識の中で、俺はアプローチを変えて、嘔吐とは何なのか考える。俺が思い出すのはこれまた前の世界での知識だ。嘔吐とは、もともとは俺たちの祖先が猿だった頃、食べ物の区別がつかなかった頃に、あやまって飲み込んでしまった危険なものや腐ったものを体外へと排出するための防御反応であったと、NHKかなんかでやってた番組で見た記憶がある。.....そう、嘔吐とは脳によって引き起こされる反射なのだ。....ここからは、理科のお勉強だ。反射とは、体の反射中枢の働きによるものだ。その動きさえ、一時的に止めさえすれば。この状況から脱することができるかもしれない.....ただ、残りの魔力の量から考えて一度きりの大勝負だ。
そして、そのためには奴へ近づかなければならない。
そうして、俺は這いずりながら、奴へ背を向ける。
「ヘイヘイ!ボーイ!!ダメじゃないか!!仲間は大切にしなきゃ!!」
「あ、アホ、か...この期に及んで、んなことできるわけねーだろ」
「そんな悪い子には俺が罰をあたえなきゃなあ!!」
そう言いながら、スコーピオは俺へと近づいてくる。そうして俺は、スコーピオの方へと向き直ると口を開く。
「命乞いのつもりかい?ナンセンスだなあ!!!」
「主、よ我、が営みに..ひとときの淀、みを!」
そうして、俺が詠唱するのは敏捷強化魔術だ。かつて、アレンとの戦闘で反射神経のような目に見えないものを加速できることは確認済みだ。もし、加速ができるのならば、鈍化もできるのではないかというのが俺の予想だ。そう、俺が狙ったのは、「嘔吐」という身体の反射を司る「反射中枢」の機能の鈍化だ。かなり分の悪いギャンブルではあったが....
「どうやら、賭けに勝ったのは...俺らしい」
俺は魔術を重ねがける。
「主よ、我が身に宿るは、正義の代理人。我は悪を砕く執行者」
高校と中学の理科の教科書引っ張り出してしらべました