第百六十一話 蠍の足音
オルガンの中に隠れていたのは、十歳ほどの少女であった。
「ごめんなさい、お金なら返しますから、痛いことしないでください」
そうして、財布を差し出してくる。
こんな状況だと言うのに、涙すらも流さない。しかし、それは恐怖していないということではない。きっと、これまでたくさん泣いて、その度に殴られて..........自警団などと言っておきながら、やっていることは下衆じゃないか....俺はスコーピオンへの怒りが沸々と沸騰していくのを感じた。リイもまた、その表情からはわかりにくいが、怒りを覚えているのだろう。俺は、優しく、諭すように声をかける。
「もう、大丈夫だよ、俺たちは君を殴らない。だから、君のことやスコーピオンのことを教えてくれないかな?」
「え、許して....くれるの?なんで?」
「俺たちがスコーピオンをやっつけるようにたのまれたからさ」
「スコーピオンの人たち、とっても強いし.....仲間もたくさんいるよ」
「数だけの烏合の衆などに、私たちは決して負けはしませんので、ご安心してください、お嬢さん」
「お兄さんたち強いんだね!!」
すると、怯えながらも、少女は自身の生い立ちやスコーピオンについて知っていることを話し始める。
少女はありふれた....といってはあれだが典型的なこの時代の孤児であった。スコーピオンは宿や水商売のケツモチの他にも孤児を使った物乞いや売春の斡旋といったシノギも行っているらしい、北野映画なんかに出てくる仁義を重んじるヤクザの姿などはどこにもなかった。俺はそうして、一つ不気味な話を聞く、数年前までのスコーピオンはケツモチの強要や孤児を使った悪どい商売などに手を出していなかったそうだ。しかし、ちょうど二年前にボスが代替わりしてからは悪どいことも平気で行うようになったと、街の人々は決して教えてくれなかった秘密を俺たちは知ることとなった。
「リイさん、これって.......」
「....ええ、アレンの時のようになにか嫌な気配がします」
「.....ですね、 すぐに本拠地へと向かいましょう」
「承知」
そうして、少女は家へと返し、俺たちはスコーピオンの本拠地があるという、廃棄された船着場へと向かう。