第百五十四話 トレード
チュンチュンという鳥の囀りで目が醒める。太陽の位置から察するに、昼前といったところか、......寝過ごした。しかし、こんな気持ちの良い起床はこの時代に来てから初めてだ。思えば、コゼットの護衛中は常に気を張っていたし。それ以前は追われる身であった。ロウサイ地方を脱出したことで、懸賞金の件からはなんとか逃げ切れたが、依然として警戒は怠ってはいけない、というのに.......。周りを見渡すと。リイも今ちょうど起きたところのようだ。俺と同じことに思い到ったようで、頭を抱えている。俺たちは互いの顔を見合わせる。
「リイさんも寝過ごしたりするんですね、意外です」
「ええ、普段はこのようなことにはならないというのに、面目ない」
そんなリイがなんかおかしくて俺は吹き出す。
リイもそんな俺に釣られて吹き出す。
二人でひとしきり笑ったあと、今日の予定について話し合おうとした矢先に、部屋の外から声が聞こえる、どうやら朝食の支度ができたらしい。そうして、朝食が運び込まれてくる。朝食は白米に、味噌汁、魚の塩焼きに、山菜の和物、卵焼きに納豆といった、いかにもなメニューであった。そして、さあ、食べようという時になって、女中が口を開く。
「朝食がお済みになりましたら、お話ししたいことがあるとノキザルが申しておりました。お手数ですが、食事がお済み次第、受付の者にお声かけください」
俺とリイはこれまで感じてきた違和感が勘違いではなかったことを直感する。
「..........わかりました」
そうして、俺たちは朝食を始める。念の為の毒味を忘れずに。
食事は大変美味かったが、途中でリイの箸がピタリと止まる。
「.....リイさん、どうしました?.......まさか、なにか入ってました!?」
「い、いえ.....そういうわけでは」
ふと、リイの膳を見ると、納豆にだけ手がつけられてない。納豆苦手な外国人って多いもんなあ。せっかく出されたものを残すのはいかがかなものかと葛藤しているといったところだろうか....。そういえば、卵焼きにはまだ箸をつけていなかったことを思い出す。
「リイさん、俺...卵焼き苦手なの忘れてました.....リイさんの納豆と交換してくれませんか?」
「....ええ、構いませんよ」
.......こういうの小学校の時の遠足でした、おかず交換を思い出すなあ。
そうして、俺たちは食事を終え、身支度を済まし、ノキザルのところへと向かう。
日本人でも納豆苦手な方、結構いますよね