第百五十二話 言伝
こうして、俺たちは大浴場にて体を流し、湯に浸かる。先客も何名かいたが、リイの姿を見るとそそくさと逃げるように去っていった。去り際に「畜生と風呂になんかはいれるかよ」と聞こえた気がしたのでそいつの足を引っ掛けてやった。そいつが派手にすっ転ぶ音を聞きながら、俺はリイの様子を伺う。
リイの表情はなんの変化も見せないが、それが傷ついていない根拠にはならない。
「いやあ、貸切になって快適ですね!!これで、人には聞かれたくない話もできるというものです」
「.........ええ、そうですね」
そうして、俺たちは温泉へと浸かり、ここまでの旅の武勇伝を語り合う。闘虫夏草との闘いに、アレンや白髪鬼との殺し合い、そんな血生臭い話をしたかと思えば、ルーナが作ってくれたシチューの話やあの時食べた焼売の話。まだ、一月にも満たない付き合いであるが話題は尽きることがなかった。
そうして、なんてことない雑談へと話は移行する。
「もし.....どんな相手にでも手紙を出せるとしたら、【主人公】さんはどなたに書きますか?」
「そうですねえ....うーん....故郷の両親かなあ...いや、【剣豪】に『ゴクラクにいるから会いにこい』って書くのもいいですね...でも、やっぱ今は、アンジーに自分の無事を知らせたいですね.....リイさんは?」
「私は、かつての友人である袁傪か、もしくは故郷の母か.....あなたがおっしゃる通り、【剣豪】へ手紙を書くのも良いかもしれません」
「手紙.....本当に出せればいいんですけどね......」
「でしたら、出してしまえば良いのでは?」
突然、リイが突拍子のないことを言い出す。
「何言ってんですか!!手紙なんて出してたって、三百年後ですよ!!どうやって届けるんですか!」
「たしかに、直接届けることはできません。ですが、誰かに託しさえすれば言伝を届けること自体は可能なはずです」
「......!!なるほど!!」
「ですので、当面は【剣豪】とその相棒を探しつつ言伝を残す手段を考える...というのはいかがでしょうか?」
「.....ありがとうございます、リイさん。そうしましょう!!」
そんな話をしているうちに、俺がのぼせてしまったので、あがることにした。リイはまだまだ余裕そうだったが....
実は、もうすでに第四章の構想を練り終わり、執筆に手をつけ始めています