第百五十話 ベッタベタな展開
俺たちはそうして、ゴクラクの北側へと足を運ぶ。街の雰囲気は雑然としながらも三百年後と同じように日本を思い起こさせる。俺は二種類の郷愁を駆り立てられながらも温泉宿を探す。すると、身なりの良い男が、チンピラに絡まれているのを目撃する。
「おい!!てめえよお!!お前がぶつかったせいで兄貴の両足がイカれちまったじゃねえか!!どうしてくれんだ!!!」
「ああああ!!イテテテテ!!こりゃもう、獣狩りは引退だあ!!」
「どうしてくれんだよ!!ああ!?慰謝料として金貨百枚持ってこいや」
「そ、そのような大金.....私の一存では......」
「じゃあ、てめえボコって奴隷商に売っ払っちまおうかなあ!!」
「何卒、何卒、御勘弁を!!」
いかにもな当たり屋だ。男も震え上がってしまい、気の毒だ。正直、ここにくるまで何十回と見た光景だ。ということで、スルーしても良かったが、ほんの気紛れで割って入る。リイは騒ぎになりかねないので待機だ。まあ、いざとなったら出てきてもらうがね。
「おい、そのくらいで勘弁してやれよ」
俺がそう言うと、弟分の方が怒鳴り散らしてくる。
「なんだ、このチビ助!!ヤっちまうぞ!!」
「やってみろよ」
俺の安い挑発に乗った弟分が殴りかかってくる。俺はそれを反射する。
「いってえええ!!なにしやがった!!!」
「.....今のは手加減したが、次はしばらく粥しか食えなくするからな」
随分と板についたハッタリと脅迫をする。
「なんだ、こいつ!!馬鹿にしやがって!!!」
と、もう一回殴りかかってくる。さっきよりも強く。学ばないやつだ。これも反射する。
「な、なんひゃ、こいつ、はたものじゃねえ!!」
顎が外れて何を言っているかはよくわからないが、どうせ大したことではない。
「て、てめえ!!このカラム兄弟に楯突いてこの町で生きてけると思うなよーーー!!!」
兄の方が捨て台詞を吐きながら、弟を連れて走り去っていく。お前、足がイカれちまったとか言ってたじゃねえか。最初から最後までベタな連中だったな。そんな感想を抱きつつ、俺は、男に向き直る。
「大丈夫でしたか?災難でしたね」
「い、いえ、ありがとうございます」
そう言う男の顔はいかにも日本風....いや、ヤマト風であった。
「私、ノキザルと申します。この先にある、『水屋』という温泉宿の主人をしております。よろしければ、今回の件のお礼として、当宿でお寛ぎください」
まさに、渡りに船ということで俺は承諾する。
「ぜひ、お願いいたします。リイさんもそれで構いませんか?」
「ええ、問題ございません」
それにしても水屋か.......もし神様がいるとしたら、そいつは残酷な奴らしい。