第百四十九話 戦略的休息
サンゲツを出た俺とリイは、後にセウントと呼ばれることになる街、「ゴクラク」へと辿り着いた。
「それにしてもバルジャン子爵...太っ腹でしたね」
「ええ、獣狩りや獣人であることを理由に支払い渋られることも想定しておりましたが....まさに、あの親にしてあの子あり....でしたね」
そんな話をしながらも、俺たちの間には「本当にあれで良かったのか」という後悔が微かに残っている。そんな空気を打破すべく俺は、声を張る。
「よし!!じゃあ、【剣豪】とホワイトを探しましょう!!」
「承知しました」
そうして俺らは、買い出しをしつつ露店の店主や宿の主人などに聞き込んでいく。調査の結果、わかったことは以下の四つ。
・【剣豪】とその相棒は他の獣狩りから疎まれていた。
・その相棒がレオンの武勇伝について吹聴していた
・その【剣豪】たちは三週間ほど前から姿が見えない
そうして、極め付けは乗合馬車の運ちゃんの証言だ。
・彼らがロウサイ地方行きの馬車に乗ったのを見た。
これらの情報から推理すると、彼らは女郎蜘蛛迷宮の主である猿を打倒するも、大怪我を負い、他の獣狩りからの襲撃を避けるためレオン一行に手柄を擦りつけ西側へ逃亡した、という筋書きが浮かび上がる。
「......入れ違いってことですよね、まじかー」
「........しかし、困りましたね。唯一の手掛かりである彼らの足取りが掴めなくなってしまいました......」
「リイさん....どうしましょう」
「.......再度、西進いたしましょうか.....いや、まだ懸賞金の件は有効でしょうし.......」
手詰まり...か、ここまでしてきた旅は決して無駄ではなかった。しかし、帰還の目処は一切立っていない.......心をドス黒い感情が支配していくのに抗うかのように、俺は声を出す
「まあ、とりあえずは休暇にしましょう!!この街は有名な温泉地なんですよ!!!」
「ほう.....それは良いことを聞きました。ここまで、心身ともに休まる暇もありませんでしたし、一度本格的に、体をやすめるのも良いでしょう」
リイも同意する。これは現実から目をそらすための苦肉の策だ。本当に俺は帰れるのだろうか......
するとリイは口を開く。
「私は、何十年でもご一緒いたします」
「リイさん.......」
そうだ、前もリイが言ってたじゃないか。「道は繋がっている」と。
これは、戦略的休息だ。