第百四十六話 王
聖剣から溢れ出した光がアーサーの肉体を包み込む。
「.......ほう、とうとう本気を出したか」
「.........我を打ち破って見せろ、勇者よ」
そうして、最後の斬り合いが始まる。
アーサーの動きは、まるで機械的とも言えるほど完璧であった。
もはや、防戦一方などとというレベルを超えて、蹂躙の域へ達していた。
「......先ほどは微かにあった、癖や綻びが全くない......」
「我の体を動かすのはもはや、我ではない、この聖剣である」
そう、アーサーが視た未来を基に、彼の肉体を最適化した行動で操る「フルオート」..こそが聖剣の能力の本質であった。
【剣豪】は、一旦「攻め」をあきらめ、回避と受け流しに全神経を注ぐ。これは、彼にとって生涯で初めてのことであり、この上ない屈辱であった。
しかし、アーサーとて、受けに徹するわけではない。【剣豪】が攻めないと見るや、彼に向けて進撃を始める。
【剣豪】は意地と勘を頼りにそれへと抗う。
「.....片腕を負傷してこれとは.......なんという力だ」
この先に待つ未来は未来視を使わずとも明らかであった。
しかし、【剣豪】の顔に浮かぶのは張り裂けんばかりの笑みであった。
「ははは、完璧な動きといっても限界がある。人が空を飛べぬように」
【剣豪】は剣戟の隙間をかわして、アーサーの左側へと飛び込む。
アーサーはそれを迎撃するために左腕へ力を込めて一撃を放つ。
「だろうな、自身の左側にいる敵を屠るならば左腕に力を込める。最も合理的だな」
あろうことか、【剣豪】はそのまま真っ向から力勝負を試みる。
「......潔いが、それは敗北と同義だ」
「それは私が決めることではない」
そのまま鍔迫り合いへともつれ込む。
最初に悲鳴を上げたのは、アーサーの腕であった。
「!!....先ほどの傷か」
アーサーの左腕から鮮血が迸り、軋むような音がする。そのまま、アーサーの左腕はひしゃげてしまう。
「.....やるではないか」
「お前の『正しさ』を信じたのだ」
そう言って【剣豪】はアーサーの瞳を横一閃で切り裂く。光を失ったアーサーは聖剣を放り投げ、その場へ座り込む。
その直後、アーサーの体から、先ほどのような輝きが失われる。
「.......マーリン、そうか、貴様でも無理か.....」
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