第百四十一話 武士/騎士道
それから、さらに数百合に及ぶ剣戟が吹き荒れた。
アーサーの剣による一撃を【剣豪】がかわす。
【剣豪】の急所を狙った斬撃をアーサーが剣を盾にして防ぐ。
アーサーは振り下ろしによる、必殺を狙うも【剣豪】によって受け流される。
しかし、【剣豪】はその間に着実に疲労が蓄積していく。彼は自身の胸に浮かんだ疑問を思わず吐き出す。
「......お前、微塵も疲労している様子がない....本当に人か?」
「........我が逆に問いたい。死してもなお、異界の迷宮の番人という役割に囚われる我らはなんなのだ」
そう話すアーサーの顔には今までの騎士にはみられなかった悲哀が感じられた。
それを見て、【剣豪】を答える。
「では、その鎖、私が断ち切ってやろう」
そう言うや否や、【剣豪】は刀を構え直す。身を深く、太刀は浅く....鹿島新当流の構えである。
「私の名は室町幕府第十三代将軍、足利菊幢丸義輝である。その命、頂戴する」
それに応えるように、アーサーも構える。
「我が名はブリテン王国国王にして円卓騎士筆頭....アーサーである。」
二人の王の剣戟はさらに激しいものとなる。
互いの体を切り裂き、鮮血が舞う。周囲に常軌を逸した金属音が響き渡る。
【剣豪】は笑っていた。
アーサーもまた、笑っていた。
互いの刃が互いの命を削る。
互いの技が互いの心を削る。
一見して、互角に見えたこの戦いであるが、天秤は確実にアーサーへと傾いていた。
それを最も理解していたのは他でもない【剣豪】自身であった。
アーサーはこれまで戦ってきた騎士の全てを持ち合わせていた。
ベディヴィアの鋭さ、トリスタンの狡猾さ、ガウェインの膂力、ランスロットの技術...それら全てを彼らよりも高いレベルで揃えていた。
「(こいつ、強い。今まで戦った誰よりも)」
彼の脳裏に纏わりつくのは猿の時よりも濃厚な「死」の香り。
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