第百三十六話 忠義の騎士
完璧に見えた均衡が崩れる。左目を失ったランスロットの死角を突くように、【剣豪】は攻撃を仕掛ける。
【剣豪】の一撃はランスロットのものほど激しくはないものの、的確に急所や手脚の腱などを抉っていく。さらに、追い打ちをかけるかのように、降り出した雨がランスロットのただでさえ少ない視界を塞ぐ。
ただ、ランスロットも必死に抗う。心臓や頭部への攻撃はかろうじて防ぐ。そうして、手脚の痛みがまるでないかのように斬りかかる。ただ、【剣豪】には届かない。
【剣豪】の刀が、最後の防衛線であった。ランスロットの剣を砕く。それを見た、ランスロットはその場へ座り込む。
「.....貴様の勝ちだ。この迷宮について教えてやろう」
【剣豪】もまた、刀を鞘へ戻し、質問をしようと口を開く。
「では、問おう。お前たちはなぜ、この迷宮にいる?私たちと同じ異界の者であろう」
「さあな、私にもわからん。あのマーリンでさえわからなかったのだ。しかし、これだけは確かだ.......」
「なんだ?」
「貴様は王の御前まで辿り着けんということだああああ」
その刹那、ランスロットは手近にあった剣の破片を掴むと、【剣豪】足へと突き刺す。【剣豪】の足からは鮮血が流れる。
ただ、【剣豪】は冷静に口を開く。
「......油断したか....そういえばお前は『不義の騎士』であったな。......いや、『忠義の騎士』か.....見事であった」
最後に一矢報いたランスロットはそのまま項垂れて動かなくなる。