第百三十四話 不義の騎士 Ⅰ
同時刻、ガウェインとホワイトが睨み合っているのとは対照的に、【剣豪】とランスロットは激しく斬り合っていた。しかし、互いの体に傷は一つもない。互いの技を互いが受け流す。一進一退の攻防がそこにはあった。
「......なかなかやるではないか」
「........」
ランスロットの剣技は騎士の基本に忠実でありながら.....いや、忠実であるが故に、シンプルな動作で【剣豪】の剣術と拮抗していた。互いが攻め手に欠ける、そんな状況であった。
そんな折、【剣豪】はここへの道すがら、ホワイトから聞いたランスロットの物語を思い出していた。
「(湖の騎士ランスロット......騎士団最強の騎士でありながら、主人の妻を寝取った不義の騎士であり、騎士団崩壊の要因.......そのような騎士であっても戦場へと駆り出す......不気味な迷宮だ)」
しかし、均衡は依然として崩れる兆しはない。もはや、互いが互いの些細なミスを待つような状況ではあるが、そのようなことは起きない。その均衡を崩したのは【剣豪】だ。
【剣豪】は、剣戟の隙間を縫ってランスロットへ足払いを仕掛ける。ランスロットは体勢を崩す。
「......卑怯な」
「.........剣術とは斬り合いの技術にあらず、殺しの実学である」
【剣豪】は即座に、ランスロットに刀を振り下ろす....ただ、ランスロットの咄嗟の回避と鎧に阻まれて、その一撃はランスロットの命には届かない。
「..........騎士の風上にもおけんな」
激昂したランスロットが大きな動作で【剣豪】へと斬りかかる。
「........お前が言うか」
【剣豪】はそれを回避しつつ、鎧の右の肘当ての隙間目掛けて斬撃を放つ。
「.......!!」
右肘を切り裂かれた、ランスロットは驚愕しつつも、己の短慮を戒め、剣を構える。
その瞳に、もう感情はなかった。