第百二十八話 塔の射手
【剣豪】は塔の中を駆ける。内部にあるのは螺旋階段のみであり、最上階以外の階層は存在していなかった。塔へ侵入し、ものの三十秒ほどで最上階へ到達した【剣豪】がみたのは他の騎士よりも豪奢な鎧を纏った騎士であった。その傍には巨大な弓がある。
「.......お前がトリスタンとやらか.....手合わせ願おうか」
それを聞いた騎士はその【剣豪】の言葉に答えて見せたのだ。
「........いかにも」
そうして、腰の剣を抜き放ち、構える。これ以上の問答は不要であると言外に語っているようであった。
「......!!!!」
【剣豪】は予期せぬ返答に驚愕しつつも、刀を構えてトリスタンへ斬りかかる。その斬り合いは壮絶の一言であった。【剣豪】の刀がトリスタンに傷を与えたかと思えば、トリスタンの剣が【剣豪】の体を切り裂く。トリスタンの剣は、威力こそ大したことないものの【剣豪】の隙を確実に突くいやらしいものであった。数十合の斬り合いの後、【剣豪】はついにトリスタンの右腕を斬り飛ばす。そのまま、トリスタンの体を斜めに斬りつける。
勝負はついた。
「......お前達はなんなのだ」
【剣豪】は問う。しかし、トリスタンは答えない。
「....答えぬつもりか.......!!」
次の瞬間、トリスタンは懐から取り出した短剣で自身の喉を貫き自害する。そうして、そのまま動かなくなる。その死体は人のものというより、もとより、命など持たない人形のようであった。
その、直後、ホワイトが塔の最上階に到着する。
「.......ホワイト、この騎士.....私の問いに答えたぞ...それに、最期は自ら命を絶った」
「.......マジかよ、おい」
「.....嘘はつかん」
「.....いよいよこの迷宮がわからなくなってきたな」
「.....進めばわかることだ」
「....たまには、お前みたいな考え方も悪かねえか」
そうして、二人は怪我の治療や休息を済ませ、塔の裏にある通路を通り、先へ進む。
トリスタン卿は琴の名手ということで、楽器が得意ならば聴覚も優れているのではという論理で聴覚が優れたキャラクターとして描きました。