第百二十七話 膨張
その騎士の名前を起点にホワイトの脳内で情報が集約していく
「トリスタンだ」
「.....トリスタン?人の名か?」
「ああ、円卓騎士のトリスタン。弓の名手で優れた聴力を持つ騎士だ」
「.....聴覚で塔の射手はこちらを探っているというのか?」
「ああ、その可能性が高い」
「塔の射手がトリスタンという騎士であるという保証はどこにある?それに、この迷宮の骨子が「アーサー王伝説」であるという根拠は?」
「まず、さっきの分析の結果から相手が俺たちを聴覚や音の反響によって探知しているという説はまず間違いない。トリスタンに関してはさっき戦った隻腕の騎士.....ベディヴィアの存在やこの迷宮内部の内装から推理しただけだ。後半の説が間違っていてもなんの問題はない。なぜなら、相手の探知手段である『音』を潰せば全て解決するからだ」
「......半分もわからんが、お前が言うのならそうなのだろうな」
「ああ、任せな。.....耳塞いでろ」
そう言うと、ホワイトは魔術で空気を操作し、自身の耳を塞ぐ、そして、【剣豪】が耳を塞いだのを確認すると魔術を詠唱する。
「水、爆ぜろ」
ホワイトより放たれた水が塔の最上階付近に浮上する。そして、その塊がこれまたホワイトが放った熱によって膨張する。
その直後、凄まじい爆発と共に、周囲に轟音が響き渡る。
「......!!!」
【剣豪】は即座に塔へ向かって駆ける。
「水蒸気爆発......化学の基本だな。あとは任せたぜ.......相棒」
そう言うとホワイトは、ゆっくりと塔へ向けて歩き出す。