第百二十一話 鋼鉄
リイの体が鈍い光沢を帯びていくのがわかる。俺は、リイがここまで見せた異常な頑丈さの正体を直感した。それと同時にリイが理性を捨てつつあることを理解した。そんな俺が彼にかける言葉は一つだ。
「リイさん、もしもの時は、俺があなたを殺します」
リイはその言葉を聞き終わらないうちに武者へと殴りかかる。リイは現在、全長2mの鉄の塊だ。リイは、武術の動きではない純粋な暴力で武者を殴る。それを受けた武者の右肩が大きくひしゃげる。
「Guaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
なおも武者はリイへと斬りかかる。ただし、その剣はリイの爪によって砕かれてしまう。
武者は最後の手段とばかりに周囲の霧を凝縮し刃を放つ。....やはり、霧を操る能力か。しかし、リイの鋼の装甲はそれを意に介さない。そうして、武者はリイに頭部を噛み砕かれ絶命した。一方的な蹂躙劇であった。
そうして、リイはこちらへと牙を向ける.....も、うずくまる。そうして、五分ほど呻いた後。徐々に体が、本来の毛色を取り戻していく。リイは獣性へと抗ったのだ。
「リイさん....」
「これが、私です。恐ろしいでしょう?」
「いえ、とても気高く見えました」
「ありがとうございます。【主人公】さん、もし私が今後、心身ともに獣に堕ちてしまったときは......」
「ええ、俺が止めてみせます」
「止める....ですか」
「ええ」
そうだ、決して、この人・の理性を殺させたりはしない。
すると、近くの草むらに隠れるように指示していたコゼットとルーナが恐る恐るといった様子で出てくる。
「【主人公】さん!リイさん!武者を倒されたのですね!!」
「さすがです!お二人とも大丈夫ですか?」
「はい」
「ええ、ご心配には及びません」
「それにしても、リイさん...とてもお強かったですわ!」
「ええ、そして、大変カッコよかったです」
「.......だってよ、リイさん」
「..........光栄です」
いつの間にか霧は晴れ、空には、黄金色の満月が昇っていた。
武者自体はそんなに強くありません。「鉄の掟」でもワンチャン勝てます。重要なのは能力を看破できるかどうかです。
今日は話の区切りの都合でこれともう一話のみの更新となります。