第百二十話 私の覚悟
【主人公】さんが刺された瞬間、彼が何を考えているかわかってしまいました。そして、彼が私ならば、確実にあの武者を仕留めることができると、なんの疑いもなく信じていることに。ルーナさんはコゼットさんを守る騎士としての「覚悟」を示しました。コゼットさんは、かつて、友を守るためならば死んでしまっても構わないという「覚悟」を示しました、そして、【主人公】さんは今、自身の命すらも顧みない「覚悟」を示しました。ただ、私だけがそれを示せずにいます。ああ、合理的に生きると決めたはずなのに、どうしてこんなにも、彼らの「不合理」を愛してしまうのでしょうか。
であれば、私も「覚悟」を示しましょう。
そうして、私は意図的に蓋をしていた「本能」へと手を伸ばします。
私の真の力は「頑丈さ」ではありません、「自身の体を鋼鉄へと変質させる能力」です。今までは、外皮の一部や、拳、爪などを部分的に変質させてきましたが、今回は違います。「全身を変質」させます。なぜ、今までこれを封印してきたか.....簡単です。この状態の私は理性の力が極端に弱くなってしまうのです。初めて、この力を意図せず解放し、周りの人間を惨殺してしまってから、長きにわたり閉ざしてきたこの獣性という名の悪魔を再び私の体へと誘い込む扉。私は、その扉に手をかけます。
彼ならば、私が「虎」になったとしても必ず止めてくださいます。
私は、ここで一時的に「人であること」をあきらめます。しかし、それは未来へとつながるための一時的な諦念。
これが、私の覚悟です。