第百十八話 小さな羅針盤
俺たちはルーナの先導で山を下っている。もう、出発してから一時間は経過している。しかし、そこまで一度の襲撃もない。しかし、霧はどんどん濃くなっている。もはや1m先の景色を認識するのでやっとだ。ルーナが道を覚えてなければ、とっくに遭難していた。
「.....不気味なほど、順調ですね」
「ええ、このまま何事もなく終わればよい....というのは少々楽観的ですかね」
「そうでしょうね、リイさんは引き続き警戒をお願いします」
「承知」
「コゼットさん、ルーナさん、大丈夫ですか?」
彼女たちの体力にも気を配らなければならない。いざという時に、走れませんじゃ洒落にならない。
「ええ、問題ありませんわ」
「私も、大丈夫です」
「疲れたら遠慮せず言ってくださいね、俺とリイさんが背負いますので」
「お気遣い感謝致しますわ」
「コゼットは背負ってもらったら?息、切れてるでしょ?」
「......では、お願いしても?」
コゼットは、恥ずかしさと数秒葛藤したのち、顔を赤くして答える。
「ええ、じゃあ俺が背負いますよ」
「ありがとうございます」
アンジー、これは浮気じゃない。合理的な判断なんだ!と、心の中のアンジーに弁明しつつコゼットを背負う。い、意外と重い....などとは口に出さない。女の子の体重はリンゴ一個分なんだと、自分に言い聞かせて背負う。
「重ければ、仰ってくださいね?私、まだ歩けますので」
「いえ、まるで何も背負っていないかのようですよ」
「まあ......」
「【主人公】さん、私が背負いましょうか?」
「いえ、リイさんは警戒を、この霧では俺の反射は戦力外です」
そうだ、俺の反射は視界に依存する魔術だ。これほどまでに、濃い霧の中では俺は戦力外なのだ。このことはすでに共有済みだ。ゆえに、俺が背負い、リイが戦う。そのまま進んでいく。俺たちは体力を温存し、位置が発覚するリスクを抑えるため無言で進む。そんな、静寂を打ち破るのはコゼットの叫び声だ。
「ルーナ!!前ですわ!!!」
すると、ルーナの目の前にあの武者が立っている
「「!!!!」」
俺とリイはすぐにルーナと武者との間に割り込もうとするも間に合わない。
「っっ!!」
しかし、その直後、金属音が鳴り響く。ルーナは護衛剣術の技で武者の一撃を防いだのだ。しかし、それは体に刃が当たるのを防いだだけ、後方へルーナは吹っ飛ぶ。俺はそれをなんとかキャッチする。
「破ァ!!」
即座にリイは武者がいた場所へ飛び蹴りを放つ。しかし、武者はびくともしない。
そうしてまた、霧の中へと消えていく。
「逃してしまいましたか.......申し訳ありません」
「.....想定できたことでした、ルーナさんすいません、怪我はないですか?」
「はい、あなたが貸してくださった剣のおかげで」
「俺が先導します.....ルーナさんは俺の後ろに立って方向を指示してください、リイさんはいつでも攻撃できるように備えてください」
「は、はい」
「承知」
ただ、ここまで断片的ではあるが、情報が揃いつつある。あの武者は霧に紛れるという特異な能力と異常なタフネスを持つ反面、敏捷性に欠け、女性でしかも最低限の心得しかないルーナでもその攻撃の威力をある程度殺せてしまうほどに非力だ。それは、最初に見せた斬撃とは大きく乖離したものだ。何かある、あの武者は決して得体の知れない怪物などではない
幽霊の正体みたり、枯れ尾花ってね
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