第百十二話 レイナンにて
俺の怪我が完治するまでの三日間、俺は暇を持て余していた。医者からは絶対安静を言い渡されているし、買い物などもコゼットたちが済ませてくれていた。リイはそんな彼女たちのボディーガードに出払ってしまっている。そういう手持ち無沙汰な時間が増える、そんな時に俺ができることと言えば過去に思いを馳せることぐらいだ。俺が思い出すのは、アンジーたちと過ごした日々だ。彼らはまるで本当の家族のように暖かい。それにアンジーと恋人になった矢先の出来事だ。意図的ではないにしろ、アンジーの心を二度も裏切ってしまったことになる。今頃、彼女たちは何をしているだろうか、俺のことを気にしないでいてほしいと思う反面、本当にそんな場面を目撃してしまったら凹む自信がある。
「....なんとも面倒臭い性格だな」
「どうなさいましたか?」
そこにいたのは、コゼットだ。どうやら、思考に没頭しすぎて彼女が部屋に入ってきたのに気が付かなかったらしい。
「.....いえ、なんでも...前の仲間のことを思い出してしまっただけです」
.....そう。俺は、彼女たちに未来からここに転移してきたことを話したのだ。博識で各地の伝承に通じる彼女ならば何か知っているのではないかと考えたからだ。..まあ、俺とリイが別の世界の人間であるということは話していないが。初めてそれを聞いた時の二人の顔はいまだに思い出し笑いをしてしまうほどにおもしろい。だが、残念ながら何も手掛かりはなかった。まあ、俺たちの秘密の一部を知ったせいかどうかは、わからないが、それ以来、彼女たちとも色々話すようになった。
「以前おしゃっていた、未来の世界のご友人のことでしょうか?」
「はい、俺のことを心配してなければいいなと」
「心配していらっしゃるでしょうね」
「でしょうね......」
それを聞いたコゼットが何かを思いついたような顔をする。
「では、私が今回の事件のことを叙事詩にして子孫へと受け継いでいきますわ。そうすれば、あなたのご友人があなたの失踪について調査をする過程で、その叙事詩に辿り着きさえすればあなたの安否を知ることができるかもしれません」
「叙事詩.....名案ですね!!お願いしてもよろしいですか?」
「ええ、あなた方の勇姿と智慧、そして優しさを余すことなく後世へと繋いでみせますわ」
俺は、少しだけ元気が出てきた。そうだ、どんなに遠くても道は繋がっているんだ。
いやーコゼット編も後少し