第百五話 ダーティ・ハリー症候群 Ⅰ
「ははは、何をするかと思えば、なんだその悪趣味な格好は?全身真っ黒で気品も流行の面影もない」
魔術の詠唱を終えた俺の体は真っ黒なアクタースーツのようなものに包まれていた。それは、かつて俺の心を救ったソフビそのもの。もう大丈夫だ。もう負けない。
「今度は俺から行くぞ、その悪趣味なスーツごとぐちゃぐちゃにしてやる」
俺は地面を蹴る、その時、俺の肉体へと返るはずの衝撃を反射して推進力にする。
「ふん、少々速くなったくらいd」
俺はそのまま、加速した拳でアレンの顔面をぶん殴る。アレンは派手に吹っ飛ぶも、すぐに立ち上がる。
「お前!僕のスーツが!」
「自分の心配をしろよ」
そのまま、アレンへと飛び蹴りをかます。
「お前ええええええ!!!」
ボロボロになってもなお、アレンは先ほどよりもさらに加速して斬撃を放ってくる。しかし、今の俺にとってはスローモーションのようにしか見えない。俺はそれをかわしながら、右手を手刀の形にしてアレンの胴体に横薙ぎの一撃を加える。今まで、何度も見た技だ。その威力は折り紙つきだ。
「あがっ!!」
俺はなおも向かってくるアレンとの接近戦にもつれ込む。アレンの斬撃は俺の鎧が防ぎ、アレンは俺の拳をまともに喰らう。ついに、アレンの剣のうち一本が砕け散る。
「あああ!!、僕の、業物の剣が......」
ここに至っても自分の持ち物を心配するアレンの姿は人間離れした執念を感じさせられた。しかし、アレンはそれでもなお、剣を構え俺へと切り掛かる。俺は、その姿がもはや自分の意思ですらないのではないかとさえ感じられた。
俺は、アレンの渾身の連撃を全て彼へと反射する。彼は自身の斬撃を全て喰らい、ズタズタになった。俺は、それを確認すると同時に、全身から力が抜けて倒れ込む。全身が筋肉痛のように痛い。それに、頭がクラクラする魔力切れだろう。この間わずか一分にも満たないものであった。
ブクマ感謝!!!