第百三話 ソフビ
あれ?ここはなんだ?俺は確か.....思い出せない。ただ、全身が痛い。でも、それも気にならないくらい頭の中が熱い。熱か?いや、違う、俺は怒っているんだ。なぜだ?.....そうだ、誰かを倒さなければいけないんだ。誰をだ?そもそも何で?
気がつくと、俺はよくある一軒家の子供部屋に倒れていた。子供部屋といっても、そこにはベッドと小さな本棚があるだけだ。そこは子供部屋というよりも、引越し初日のアパートといった方が正しいだろう。それでも、なぜかそこが子供部屋だとわかった。
そんな俺の前に現れたのは、8歳ぐらいの少年だ。俺はそれが子供の頃の俺だと直感的に理解した。そして、俺の前に現れたというよりは、俺が彼の前に現れた、という方が客観的に見れば正しいのだろう。どこだ.....ああ、そうだ、思い出してきた。確か、この日は兄さんの誕生会だったんだ。兄と言っても俺とは父も母も違う、戸籍上の兄。母さんの連れ子である俺は、早々に誕生会から追い出されて部屋に戻ってきたのだ。俺の誕生会は開かれなかったのに、仲良くなれると思ったのに、なんでママは僕じゃなくて知らない男の子の味方をするの?そんなことを考えて泣いたのを覚えている。子供の俺の手には当時お気に入りだった特撮ヒーローのソフビ人形が握られている。確か、なんとかブラックとかいう名前でレッドやブルーといった花形とは違い、あまり目立たず人気がなかった。おもちゃ屋のガレージセール行きになっていたそいつに妙な親近感を覚えて、親にねだったのだ。珍しくおもちゃを買ってもらえた俺はそのソフビをどこへ行くにも持ち歩いた。ただそれだけではない。そんなブラックの境遇と俺の境遇を重ね合わせて勝手に二人だけの世界を作っていた。思えば、俺が転移して冒険者なんて稼業で食っていこうと思ったのも、このヒーローに憧れたからだっけ。支援職を選んだのも、日陰であっても最善を尽くすブラックの姿に憧れたからだ。今まですっかり忘れていた。そうして俺は立ち上がり、子供の俺の頭を優しく撫でる。「今は辛いだろうけど、大丈夫」「この先、君は救われて、人を救う立場になる」などと柄にもなくポジティブな言葉をかける。それが、子供の俺の心に届いたのか、そもそも子供の俺は俺の姿を認識できているかもわからないが、それでもいい。別にレッドになれなくたっていいじゃないか。俺は俺のできることをやる。
そうして、俺は子供部屋を出る。
結構な量を書き溜めてあるんですけど、完全に投稿するタイミングを見失っています。
ちなみに、私はゴセイジャー〜ゴーカイジャー世代です