第九十九話 履行
コゼットは涙を流しながら俺たちへと懇願する。もはや、その姿は気高い貴族でも、仮面を被った論客でもない、ただの友達思いの女の子だ。あとは、俺たちがどうするかだ。わざわざ考えるまでもない。俺の理想は決してこんな哀れな少女達を見捨てることを許さない。
「話の続きを聞かせてください。ただ、約束します。その秘密がなんであろうと、あなたとあなたの友人は俺たちが守ります。....もう大丈夫です、あとは任せてください」
俺は出来る限り優しい声色でそれを言った。リイもまた、異論はないと言わんばかりに頷く。
そうして彼女は語り始める。もはや、彼女のお礼の言葉は涙にかき消されて言葉としての体裁をなしていなかった。しかし、彼女は持ち直し、俺たちに真実を語り始める。
「追っ手の名はアレン。名門イーストウッド伯爵家の次男です。彼は気に入らない者は子供であっても平気で殺す人格破綻者です。彼は、かつて自分の服に偶然触れたという理由で当時11歳の少女を殺害しています。彼とは、三週間ほど前に、公務で訪れたベイトという街で出会いました。そこで、彼はルーナに一目惚れしてしまったのです。彼はまず私にルーナを譲ってくれと交渉してきました。当然、私は拒否します。そうすると彼は伯爵家としての権力を利用して私に圧力をかけます。しかし、私の家とて、彼の家格には及ばないものの名門です。そのおどしには屈しませんでした。最後に彼は暴力的な手段に出ました。ある日の夜更け、私どもが滞在する宿を単独で襲撃したのです。私どもと護衛騎士はなんとか応戦しつつ街から逃げ出しました。この時、当家の護衛騎士団はほとんど虫の息でした。.....あとは、あなた方もご存知の通りです。」
「お願いします!!私はどうなっても構いませんので!!ルーナだけでも、あの悪魔の魔の手から救ってやってください!!」
その時の俺たちはどんな顔をしていただろうか、絶句か軽蔑か。ただ、これだけは確かだ。俺たちは怒っていた。
「......お話はわかりました。アレンの手からあなた達を守り抜いて見せます」
「ありが、とうございま、す!」
コゼットはなおも泣いている。
「本当に、ありが、とうございます」
ルーナの方を見ると彼女もボロボロと大粒の涙を流している。リイはそんな二人のお礼の言葉を聞くと口を開く。
「それには及びません。私たちはただ金銭と引き換えにあなた方を護衛する、という契約を履行するだけです」
そう言うリイの腕は毛皮の上からでもわかるほど血管が浮き出ていた。
しかし、現実は無情にもまだ見ぬ追っ手へと味方をする。馬車の行く末には深い谷が俺たちをまるで追い返すかのように待ち構えていた。
いやー美しい友情っすね^ ^