第九十四話 テーブルマナー 前編
「......それにしても、未来の時代の通貨がある程度有用であるということは大きな進歩ですね」
「ええ、依然として苦しいことには変わりありませんが、コゼットの護衛のことも考えればしばらくは安泰ですね」
「.....コゼットさんのご家族がお支払いをしてくだされば、の話ですがね」
「ええ、彼女の親は貴族です。これは盗品屋の店主のようにはいきません」
「ただ、彼女の様子を拝見するに、彼女自身が積極的に私たちとの約定を反故にする類の人物には見えませんでした」
「ただ、警戒は要りますね」
「ええ、では、買ってきていただいたものを拝見しても?」
「はい、これがリイさんの外套で...これが俺ので..」
リイは俺の取り出した外套を見ると、一瞬顔を強張らせるも、俺用のものを見るとすぐに申し訳なさそうな顔になる。最近気が付いたのだが、リイは意外と表情豊かなのだ。
「【主人公】さん....あなたまでこのような服を着る必要は.....」
「いえ、まとめ買いで値引きしてくれましたし、それに、結構作りはしっかりしているんですよ?」
「......あなたが良いとおっしゃるなら」
「ええ、俺は何の問題もないです」
そんなとき、コンコンと部屋をノックする音が聞こえる。扉越しにルーナの声が聞こえる。
「ルーナです。夕食のご用意ができたとのことなので、一階の食堂にいらしてください」
俺も扉越しに返事をする
「わかりました。では、リイさん行きましょう」
「承知しました」
ただ、この食事大きな問題が一つある......!!
「俺、テーブルマナーなんてわかんないですよ」
「ご安心ください」
「リイさん...!!!」
さすがリイの兄貴だ。頼りになる!!よっ!!知の巨人!!
「私も存じ上げません」
そう言うと、リイはいたずらっ子のような笑みを見せる。
「....まあ、赤信号も二人で歩けば怖くない、と言いますしね.....」
「それは、興味深い諺ですね。後程、教えていただけますか?」
「ええ」
そんな会話を交わしながら、俺たちは貴重品を服の中にへと隠し、部屋を出る。