第九十二話 焼売
短いっす
服屋で買い物を終えた俺は、宿を目指す。そうして、先ほど買い物をした市場を通り抜けようとしていると、フワリとどこか懐かしいような香りが俺の鼻腔を刺激した。その香りの主へと目を向けると、それは焼売...のような食べ物を売る屋台であった。そこで、俺はふと、リイの故郷が中国であったことを思い出す。リイには多くの迷惑をかけている。俺の途方もなく長い旅に付き合わせ、途中の道案内や二人の護衛、あまつさえ俺の代わりに殺人までさせてしまっている。こんなもので、リイへの感謝を示せるとは思えないと、頭のどこかで考えつつも自然と足が向かってしまう。俺は店主に二人分の焼売を注文し、財布を開こうとして、手を止める。この買い物は、俺たちの旅には不要なものだ。それを二人の金で支払おうというのはいただけない。俺は、服の下に固定してあったもう一つの財布へと手を伸ばす。これは、俺が三百年後の世界で冒険者として稼いだ金だ。この世界の通貨は金、銀、銅のコインである。多少時代が異なっても、素材が同じである以上、全くの無価値というわけでもないだろう。
「.....すいませんが、外国の任務の帰りでこれしか持っていないのですが。これでお支払いしても構いませんか?」
店主は俺を不審な目で見つめると、俺の差し出した銀貨を受け取る。そして、銀貨と俺..正確には俺の肩にある家紋に交互に目をやると
「ええ、構いませんよ」
と言い、焼売を渡す。こうして、俺は今度こそ宿に戻る。焼売が冷めないうちに。
この時、俺の背後を尾ける人影があった。リイであれば気がつけたであろうが、ただの人間である俺には気がつくことはできなかった。
商品や通貨の価値はテキトーですが、私たちの常識から大きく乖離しているというわけでもありません、当然【主人公】君も物価なんかは把握してます