第九十一話 ジョスイにて
ついに本作も2ページ目へと突入しました。
俺は、宿の受付に教わった中流、下流階級向けの市場へと向かう。前に、空き家にてコゼットの護衛の死体から剥ぎ取っておいた鎧を身につける。この鎧の肩にはおそらく彼女の家のものであろう家紋がデザインされている。先ほどは、賊としての身分を強調する可能性があるとして着用を控えたが、この街において彼女の権力が通用するとわかった以上、利用しない手はない。そうして、市場へと向かう。市場は西洋的な雰囲気を持ちながらもどこかアジアを思わせる匂いが漂っていた。
「さあ!!、そこの騎士様!!うちの剣はよく切れるよ!!!」
「そこの色男の騎士様!!うちの花束でご令嬢の心を射止めちまいな!!」
案の定、周りの人間は俺を貴族の護衛騎士だと思い込む。今回、俺が買い求めるものは主に二つ。当面の四人分の食料とリイと俺の服の替えだ。まず、俺は手近な屋台へと向かう。俺は肩の家紋を強調しながら話かける。この世界の権力者の振る舞いを心掛けて、なるべく高圧的に。
「四人で二週間分ほどの干し肉を買いたいのだが」
「承知しました、こちらになります」
と、商品を差し出し、値段を提示してくる。念の為、もう一芝居だ。
「ボろうなんてことは考えるなよ?この俺が誰にお仕えしているか、わからんわけではないだろう?」
「承知しております。バルジャン家の騎士様にふっかけようだなんて考えは微塵もございません」
店主は声を振るわせながら答える。
「ならいいんだ」
そうして、俺は会計を終える。ふと、財布の中を確認する。ポイズンボアの討伐で得た資金はここまでの賄賂やコウナン村での出費によって底が見えつつある。これはコゼットの護衛の分を考えても、何か策を練らなければ。などと、考えながら俺は、市場を抜け店舗が並ぶ商店街のような場所へと移る。これも、宿の受付から教わった、服屋だ。......主に奴隷のための。そう、獣人は差別の蔓延る地域においては侮蔑の対象でありながら支配の対象でもあるのだ。ここであれば、リイの服の代わりが見つかるだろう。そうして俺は入店する。店内には物腰の柔らかい初老の店主がいた。店主は一瞬、俺の姿へ品定めするような粘着質な視線を向けるも、俺の肩にある家紋に目がいきすぐに笑みをその顔に貼り付けて話しかけてくる。
「いらっしゃいませ、騎士様。どういったご用件で?」
「獣人の...奴隷、に着せる外套を探している」
「なるほど!!下賤な獣にも上着を着せてやるという情け深さ!!さすが、バルジャンの騎士様だ!!」
俺はその言葉を聞いて、リイがいなくてよかったと安堵しつつ、あくまで威厳あふれる騎士へとなりきる。
「御託はいい、そいつの身長は2mほどあり、かなり筋肉質だ。フード付きのものを頼むぞ」
「承知しました。.....ではこちらはいかがでしょうか?」
そういって店主が見せるのは黒の外套だ。黒であれば返り血も目立たない。サイズも申し分なく、こちらの要求を通りフードもついている。それに、作りもその辺の安物より、しっかりしている。
「ああ、これをもらおう。それと.....」
それと、自分用のものもここで購入する。いくら作りが良くても結局は奴隷用のものだ。見るものが見ればわかってしまうだろう。だから、これは俺の自己満足だ。
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