訓練編4
薄いバリアを維持しようとするたびに、膜が揺れる。
波紋のように震え、時にすっと弱くなり——俺の意識とズレていく。
因幡教官は、その様子をじっと観察していた。
「赤木。お前は魔力量そのものは平均的だ。だが——流れ方が異質だ」
「やっぱり……普通じゃないんですね」
「普通ではない。だが、それが悪いとは限らん」
教官は、ゆっくり膝を折り俺と目線を合わせた。
「バリア系は“緻密さ”が武器だ。力任せに張るのではなく、線を制御し、面に広げる。お前は……その“線”の制御が極端に難しい」
「線……」
「赤木の魔力は、最初に発動した時点で“細く分散する性質”を見せていた」
初めての発動——狼に襲われたあの時のことがよみがえる。
状況は死に際。バリアが勝手に張られた。
その瞬間、確かに胸の奥で何かが“張り付いた”ような感覚があった。
「あれは……偶然じゃなかったんですね」
「偶然ではない。むしろ——最初からお前の魔力は“あの形”をとりたがっていた」
言い終えてから、因幡教官は一拍置いた。
慎重に選んだ言葉が続く。
「……ただし、まだ早い。核心に踏み込むのは危険だ」
“核心”
その単語が、空気をわずかに重くした。
「今日やるのは、形を整えるための基礎だけだ。原因の詮索はしない。いいな?」
「はい」
「よし。では次は——歩きながら張れ」
「歩きながら……?」
「実戦では立ち止まって張る暇はない。動作しながら膜を維持しろ」
俺は立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。
同時に、薄い展開型バリアを手の前に広げた。
——シ、シ……
震える。
歩調に合わせてか、揺れはむしろ大きくなる。
「動くとブレが露骨だな。赤木、意識が前のめりになっている」
「どう直せば——」
「“押さえつけるな”。余計揺れる」
「……え?」
「魔力の揺れは、お前の内部にある“細い流れ”のせいだ。無理に押し留めれば反発する。むしろ……流れに合わせて動かせ」
「流れに……合わせる?」
そんなこと、考えたこともない。
でも言われた通り、逃げようとする細い“何か”に意識を合わせ、
その方向へ、膜をわずかに“滑らせる”。
すると——。
——ピタ。
揺れが止まった。
「……!?」
「止まったな」
「今の……」
「赤木。お前の魔力は、一般のバリア使いと違い、
“均一に押し広げる”よりも“細い流れを拾う”方向のほうが安定するらしい」
「そんなの……ありなんですか」
「ありだ。魔力は個性だ。合わない方法で押し込めば壊れる」
因幡教官は腕を組み、薄く微笑んだ。
「赤木。お前は“流れを読む”資質がある。普通の盾使いとはまったく逆の方向だがな」
「逆……?」
「盾は通常、壁を作る技術だ。だが——お前は“線が勝手に走る”。
それを無理に抑えてもできない。だから……」
そこで教官は言葉を切り、少し考えた。
慎重に、慎重に選んだ口調で続けた。
「……この現象、俺にもまだ判断がつかん。だが一つ言えるのは——」
その目は真っ直ぐ俺を射抜いた。
「赤木。お前の魔力は、“何かに向かって”流れている。
原因はわからん。だが、自然に発生するものではない」
胸が、冷たくなる。
何かに向かっている。
俺の魔力が……?
「し、自然じゃないって……それはつまり……」
「怖がるな。今の段階では“可能性の一つ”だ」
因幡教官は視線を外し、決して俺を不安に沈ませない声で言った。
「赤木、今日の訓練はここまでだ。魔力の癖は掴んだ。
明日からは、この流れに合わせて操作する練習を続ける」
「……はい」
「最後に言う。——この流れは危険だ。だが同時に、お前の武器にもなる」
教官は俺の肩を軽く叩いた。
「扱い方さえ間違わなければな」
その“細い流れ”はまだ見えない。
でも、確実にどこかへ向かって……
俺の中で、静かに脈打っていた。
前置きプラス一話今日投稿したい




