訓練編3
翌朝。
筋肉痛と、胸の奥の“妙な疲れ”を引きずったまま、俺は訓練区画へ向かった。
昨日の衝撃が残っているのか、掌はまだじんじんしている。
魔力の使いすぎのはずなのに——肉体の疲れとは違う、妙な“抜け感”があった。
(なんだろ……これ)
考えても答えは出ない。
けれど、胸の奥で確かに“線が引っ張られるような”感覚が残っている。
扉が開くと、因幡教官がいつもの無表情で待っていた。
「来たか、赤木。顔色が悪いな」
「少しだけ、疲れが残ってます」
「当然だ。昨日はちと踏み込みすぎた。まあ、いい。今日はもっと地味な訓練だ」
「地味、ですか?」
「そうだ。制御だ。展開型バリアの基礎は、“形を維持する力”にある」
教官が指で空間を撫でるように示す。
「昨日のお前のバリアは表面こそ張れていたが、内側が揺れすぎていた」
「揺れ……ですか」
「ああ。魔力の“流れ”が波打っている。普通の初心者ならもっと単純に乱れるはずだが……赤木、お前の場合は波が妙に細い」
「細い?」
「……いや、まだいい。後で説明する」
因幡教官は言いかけて、首を振った。
説明しない——というより、“説明できない”ような迷いだった。
「まずは座れ。呼吸を整えながら魔力を手のひらに集める。それだけだ」
俺は床に座り、深く息を吸った。
手のひらに意識を向けると、昨日の疲れがまだ残っているせいか、魔力がゆっくりと集まる。
集まる——はずなのに。
(……なんだこれ)
集まった魔力が、ほんの一瞬“逃げる”ような感覚がある。
こぼれる、というのとも違う。
ただ、どこかへ細く抜けるような——そんな奇妙な違和感。
「赤木。集中しすぎるな。眉間に力が入ってるぞ」
「あ、すみません……」
呼吸を整え、もう一度。
集める。落ち着かせる。
だが、やはりどこかへ細く引かれる感覚は消えなかった。
「教官…」
「なんだ」
「魔力を集めてると、少し抜けるような感覚があるんです。変ですよね?」
因幡教官は一瞬だけ黙り、視線を落とした。
そして、少し低い声で言った。
「変だな。普通ではない」
「普通じゃない、ですか」
「あくまで今の段階ではだ。焦るな。余分なことを意識するとさらに制御を乱す」
教官は立ち上がり、俺の後ろに回る。
「赤木、手を見せろ。魔力の流れを外側から見る」
俺は言われた通り、手を前に出した。
因幡教官が手を近づけ、わずかに目を細める。
数秒。
沈黙。
そして、ごく小さく。
「……やはり、“細い揺れ”があるな」
「細い揺れ……」
「だが理由は今は言えん。結論を出すには早すぎる」
因幡教官ははっきりそう言った。
それは“まだ確証がない”という、教官としての慎重な口調だった。
「赤木。今日はこの“揺れ”を抑える訓練をする。原因の推測は後回しだ」
「はい」
「まずは微弱展開だ。《展開型バリア》の半分以下。薄く、薄く張れ」
「わかりました」
再び呼吸を整え、魔力を集め——。
薄く、面を作る。
しかし。
シという微かな音と共に、膜が震えた。
「…!」
「やはり揺れるか。赤木、何かが魔力の流れを引いているような形だ」
「何かって……」
「聞くな。今はまだ話せん。訓練に集中しろ」
強い口調だった。
隠しているというより、俺を混乱させないために押しとどめている気配。
でも——胸の奥のあの感覚。
昨日から続く“細い線のような引きがある違和感”。
それが、少しずつはっきりしてきている。
(なんだ……これ)
正体はまだわからない。
けど、確かに俺の中に“何かがある”。
その“細い何か”は、まだ教官すら口にしないまま——
俺の掌の中で、微かに揺れ続けていた。
もう少しだけ読んでくれ
そしたら戦闘シーンだから
お願いします。ブクマも星も




