訓練編2
ドローンの衝撃が消えた肩を軽く回しながら、俺は深く息を吐いた。
思った以上に難しい。
——それが正直な感想だ。
「痛みは大丈夫か」
「はい……たぶん」
「無理をするなとは言いたいが、防御系は結局“張り続けて慣れる”しかない。いくぞ、赤木」
因幡教官が手元のタブレットを数回タップする。
天井のライトがわずかに切り替わり、訓練モードが次の段階に移った。
「次は“接近しながら展開”。君自身が動く訓練だ」
「……動く、ですか」
「立って構えてるだけじゃ、実戦じゃ役に立たない。バリアを出す瞬間、脚が止まる癖がある。そこを直す」
確かに。
俺は展開に気を取られると、呼吸も足運びも固まってしまう。
「まず俺が動く。その動きを追いながら、攻撃を“受ける側”のバリアをイメージして展開してみろ」
「わかりました」
因幡教官が間合いを取って歩き出す。
一歩、二歩……その軌道を見ながら、俺は呼吸を合わせる。
(落ち着け……焦るな……)
掌に意識を集中。胸の奥にある“バリアを生む感覚”をつかみ、形にする。
「——今だ、展開!」
「《展開型バリア》!」
瞬間、俺の前方に薄い膜が走った。
しかし、俺の身体は一瞬止まってしまい、因幡教官の動線とはズレてしまう。
彼はひょいと横へ避け、肩をすくめた。
「悪くはない。だが動きながら展開はできていないな」
「ですよね…」
悔しい。
相手の動きに合わせようとして、どうしても意識が散ってしまう。
「赤木、もう一つ意識することがある」
「なんですか?」
「お前……展開の直前、必ず眉間に力が入りすぎてる」
「……えっ?」
「緊張しすぎだ。視界が狭くなるぞ」
確かに。
言われて初めて気づいた。
俺は“守らなきゃ”という意識が強くなると、周囲が見えなくなる癖がある。
「防御スキルはな……異様に自分を追い詰めるタイプとは相性が悪い。緩めろ、赤木」
「……難しいですね」
「難しいさ。だから鍛えるんだ」
因幡教官が再び構える。
今度は動きが少し速い。
「いいか。俺の動線を“点”で追うんじゃない。“面”として捉えろ」
面。——それはまさに、バリアの形そのものだ。
俺は息を吸い、動線を視界の端で捉える。
そして走り出した因幡教官の体を、“ぶれの少ない平面”としてイメージする。
「《展開型バリア》——!」
バシュッ!
今度は、動きながら綺麗な面が一瞬出現した。
因幡教官の拳がそこに当たり、軽く弾かれる。
「……ほう」
教官の声がわずかに低くなった。
驚きと、少しの評価が混ざっている。
「今のは悪くない。動線の捉え方が変わったな」
「なんとか……!」
「ただし——」
因幡教官が歩み寄り、俺の掌近くを指でなぞる。
「展開の“残滓”が揺れてる。……魔力の線が、まだ乱れ続けている」
また、“線”。
胸の奥がざわつく感覚は、やはりまたある。
「赤木。今日はあと一回だけやる」
「ラスト、ですか」
「そうだ。最後は“俺が本気で踏み込む”。お前は——恐怖に耐えながら展開できるか試す」
手汗が出る。
でも、逃げられない。
「……はい。お願いします」
因幡教官は小さく息を吐き、構えを低くした。
踏み込みの速度が——違う。
まるで、空気が一段階、重くなるような感覚。
「いくぞ!」
地を蹴る音。
教官の姿が一瞬残像になり——。
(くる……!)
「《展開型バリア》!!」
ガンッ!!
俺の目の前で、因幡教官の手刀がバリアにぶつかり、大きく弾かれた。
床に靴音が響き、教官は半歩下がる。
「……!」
俺は息をのみ、足が震えるのを必死でこらえた。
しばらくの静寂のあと——。
「赤木。……よく耐えたな」
因幡教官は、ほんのわずか、笑ったように見えた。
綺麗な人だ——— そんな感想を飲み込んだ
「今日のところはここまでだ。身体も魔力も、もう限界だろう」
「はい……正直、きついです……」
「明日は制御訓練に入る。お前のバリアには“気になる点”が多すぎるからな」
俺は喉を鳴らし、自分の手を見つめた。
確かに揺れていた。
何かが、どこかがおかしい。
でも原因はわからない
面白いと思ったら、星、ブクマよろしくお願いします




