第二層訓練4
今日もう1話出せるかも………
因幡教官の指先がわずかに動いた瞬間、空気がひんやりと収縮し、俺の皮膚が粟立つ。
「赤木。これは“本番の三割”だ。だが油断すれば転ぶぞ」
そう言って、教官は掌を水平に向けた。
次の瞬間――
バンッ!
音ではなく、空気の圧だけが爆ぜた。真正面から“叩かれる”気配。
(くる……!)
俺は胸の中心の“細い糸”――昨日つかんだ減衰イメージに意識を集中させる。
衝撃が胸へ届く。
が――
じ……っ
胸の内側で、衝撃が“向きを変える感覚。押し返すんじゃない。沈めるんでもない。
歪ませて、“外側に戻さない”。
(……これ……が……第二層……!)
足元が少しだけ砂利を踏んだが、体勢は崩れない。
因幡教官の目が細められた。
「耐えたか。……最初の反応としては上出来だ」
少しだけ安心したその瞬間、
「気を抜くな。次は二倍だ」
「っ……!」
言い終わる前に、第二波が飛んでくる。
バシュッ!!
空気を削るような圧。
(来る……!)
胸の奥の“細い糸”が震える。耐えられない量ではない。だが、昨日より深く抉ってくる。
(沈めろ……違う……歪ませて……“流す”!)
第二層は攻撃じゃない。
境界の“向きを変える”だけ。
俺は衝撃の入り口で、そっと手を添えるように意識を傾けた。
ず……ッ
前へ向かう圧が、胸の奥で“横に流れる”。
(……できた……!)
だが流しきれず、膝がわずかに沈む。地面にかろうじて踏ん張る。
因幡教官は腕を組んだまま、冷静に言う。
「悪くない。だが八割は流し切れていないな、第二層の本領は“完全な反転減衰”だ」
教官が一歩、こちらに近づく。
「赤木。外からくる衝撃は、いずれ“感情”や“声”に変わる。その時に流せなければ……また引かれるぞ」
その言葉だけで、胸の奥が薄く冷える。
(……あの“呼ぶ声”……)
教官は鋭い視線で俺を射抜く。
「次で今日のラストだ。三段階目。昨日、お前の境界が揺れた時と“同程度”の圧を送る」
思わず息を止めた。
(そのレベル……!?)
教官ははっきりと言い切る。
「赤木。“これに耐えられないなら、第二層に踏み込むのはまだ早い”。
そう判断すればすぐに止める。だが――挑む覚悟があるなら、構えろ」
喉が、砂みたいに乾く。
だが逃げる気は全くなかった。
俺は一歩前へ出て、姿勢を正した。
「……お願いします。やります」
因幡教官はわずかに目を細め、
「――なら、来い」
掌がほんの少し動いた。
同時に、空気が凍りつく。
ゴッ……!
空気が押し寄せる。昨日“叩かれた”のと同じ圧。
胸の奥に直結する、嫌な、重い、ぞわりとした干渉。
(……来る……!)
胸の中心に意識を落とす。
糸が震える。切れそうなほど細い。
だが――
(違う……“押し返す”んじゃない。“混ぜない”。俺の中に入れない……!)
衝撃が胸に突き刺さる。
ギ……ッ!
境界がきしむ音がした気がした。
(流せ……流せ……!!)
胸の奥で衝撃が跳ね返る。
反転だ。
衝撃の向きが、ゆっくりと変わっていく。
だが強い。膝が震え、視界が揺れる。
足元の砂利が、バラッと滑る。
「――赤木、まだ沈むな!」
因幡教官の声が飛ぶ。
(まだ……まだいける……!!)
胸の奥の糸をつかみ、必死に細く締め直す。
すると――
ス……ッ
重圧が、ふっと軽くなった。
空気が、普通の世界に戻る。
俺は大きく息を吐き、肩を上下させた。
因幡教官はしばらく黙って俺を見て――
「……合格だ」
短く、はっきりと言った。
「第二層、《反転減衰》の初期適応。今日のところはここまでだ」
膝が笑いながらも、立ったままで耐えきれた自分に驚く。
教官は続ける。
「赤木。お前は想定より“速い”。だが速さに酔うな。第二層は、使いこなすまでが長い。ここからが本当の地獄だと思え」
少しだけ笑ってしまいそうになるほど、いつもの因幡教官の言葉だ。
それでも、
(……やれた……)
胸の奥に、昨日とは違う“静かな熱”が灯っていた。
ブクマ、星よろしくお願いします。




