第二層訓練2
因幡教官は俺の肩越しに周囲を一瞥し、低い声で言った。
「……このまま歩け。赤木、呼吸が浅くなっているぞ」
「……すみません」
「謝るな。境界が揺らいでいる時は“外界の雑音”が増幅する。
今のお前が感じているのは、その副作用だ」
雑音。
(……確かに、廊下の影がさっきより濃く見える……)
俺は深く息を吸い、意図的に視界の中心だけを見る。
因幡教官は続けた。
「本当なら、しばらく休ませて境界を閉じるべきだ。だが――お前の第二層は“自発的に動いた”。これは無視できない」
(……第二層……反転境界……)
名前を思い出すだけで、胸の奥が微かに疼く。
「場所は変える。ここでは刺激が強い」
因幡教官が歩みを止めたのは――
訓練棟の裏手にある、ほとんど使われていない屋外の実技スペースだった。
荒れてはいないが、ひんやりとした空気が残っている。夜の影を濃く吸い込み、誰も近寄らない静かな場所。
「ここなら外界干渉は最小だ。余計な“揺らぎ”もない」
教官はそこで初めて俺の正面に立ち、
「赤木。第二層を開くぞ」
「……ここで、ですか?」
「ここがいい。“開く瞬間”は繊細だ。空間ノイズが少ない場所ほど安全だ」
因幡教官は手を上げ、俺の胸の前の空気をそっと撫でるように動かした。
すると、その軌跡がわずかに光り、薄膜のようなバリアが反応した。
「……っ」
胸の奥が熱くなる。呼吸が入り込み、広がる。
「感じたな? それが“外側”。 第一層は外側を瞬時に展開する層だ。だが――第二層は逆だ」
教官の声が静かに落ちる。
「“内側を広げて、外側を押し返す”。赤木、お前はすでに入口に立っている。だからこそ、ゆっくりだ」
俺は頷く。
因幡教官は、まるで俺の心臓を扱うように慎重な速度で近づき、
「境界を意識しろ。 今のお前の“中心”を一点にまとめろ。外から叩かれた時に震えた……あの場所だ」
(……さっきの、ノックが響いた……)
意識を向けると、また微かに――
コツ……
今度は、はっきり感じた。
教官は即座に反応した。
「よし、その感覚を逃がすな。恐れるな。“叩かれた入口を、今度は内側から押す”。ただそれだけだ」
俺はゆっくり息を吸い、意識を一点に絞る。
すると――
胸の奥で、光が反転するような感覚が走った。
どん……!
空気が震えるほどの押し返しが自分の内部から外側へ向けて広がる。
土の上の落ち葉がふわりと舞い上がった。
因幡教官はほんの一瞬だけ目を見開いた。
「……っ、今のだ。赤木、それが第二層の“初動”だ」
身体の奥から力がせり上がり、同時に疲労の波も押し寄せる。
「だが押しすぎるな。第二層は開きっぱなしにするものじゃない。境界は“外よりも内を守る”形で安定させろ」
因幡教官は俺の手首を取り、軽く引いた。
「戻せ。中心を締める。ゆっくり……」
呼吸を整え、意識を狭めていくと――
先ほどまでムズついていた胸の奥が、静かに沈んでいった。
因幡教官は腕を組み、満足そうに頷いた。
「赤木。……今ので十分だ。第二層は“開く”より“閉じられる”ことの方が何倍も重要だ」
「……はい……っ」
全身が熱い。
息が整わない。
「無理もない。初めて自力で開いたんだ。まだ一部だが……素質は本物だ」
因幡教官はふっと息をつき、
「今日はここまでにする。これ以上は、“本当に扉が開く”。」
その言葉の重さに、背中がわずかに冷たくなる。
だが教官は優しい声音で付け足した。
「赤木。お前の境界はまだ“揺れている”が……――もう“叩かれても折れない”ところまで来ている」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
俺は小さく息を吸い、
「……教官。ありがとうございます」
因幡教官は軽く顎をしゃくり、
「礼はいらん。次は“制御”に入るぞ。第二層を扱う以上、甘さは捨てろ。赤木篤」
俺はしっかりと頷いた。
本当に頼むから評価だけでもしていってくれぇ
まだ一個もついてないんだよぉ




