鍵
座れ、赤木」
制御訓練を終えたあと、因幡教官に呼ばれ、
俺は訓練室の隅にある簡易ベンチに腰を下ろした。
真白と迅も向かいの席に座る。
因幡教官はタブレットを操作しながら、淡々と言った。
「赤木。
お前の《展開型バリア》は、“バリア”という言葉だけで理解できるほど単純なスキルではない。
本来はもっと広範囲で、もっと多機能だ」
俺は息をのんだ。
(……多機能?)
「ただの防御じゃないってこと……?」
真白が首を傾げる。
「そうだ」
因幡教官は静かに答えた。
「《展開型バリア》は、一般的なバリアスキルとは“根っこ”が違う。
防御構築系ではなく──感応・境界形成系に分類される」
迅が目を細めた。
「つまり……精神干渉に強いのも、もともとの仕様ってことですか」
「そういうことだ」
因幡教官はうなずく。
俺は思わず疑問を口にした。
「教官……じゃあ、俺のスキルは、あの“声”にも……?」
因幡教官は目を逸らさず答えた。
「耐えられる。
だが──同時に“繋がれやすい”」
(繋がれやすい……)
あの“コツン”という音が、耳の奥で蘇る。
「赤木」
因幡教官が続ける。
「《展開型バリア》の基本は“境界”だ。
お前が先ほどやったように、境界を保つことで力を初めて扱えるようになる」
「……じゃあ、今日の訓練は、その……準備段階?」
「そうだ。そして明日からは“本来の使い方”に入る」
俺は息をのんだ。
「本来の使い方……?」
因幡教官は表示した資料を俺の目の前に投影した。
そこにあったのは──
『展開型バリア:一時的な多層境界の形成』
「多層……?」
「赤木のバリアは、本来“層”になっている。
だが今の段階では一層目しか使えていない」
真白がぽかんとする。
「一層……ってことは……二層目、三層目もあるの……?」
「ある。
ただし、一般の探索者が扱えるものではない。
展開型は扱いを誤ると、使用者の精神を過負荷で破壊する」
俺は冷汗がにじむのを感じた。
(……そんな危険なスキルだったのか)
そのとき迅が言った。
「教官。
赤木が“引かれた”のは……バリアの層が関係あるんですか」
因幡教官はわずかに沈黙し、答えた。
「……関係している。
深層イレギュラーは“境界の薄い相手”を好む。
だが赤木の境界は強い。
強いが……同時に“形がある”」
真白がはっと息をのんだ。
「形が……ある?」
「境界が強くても、輪郭がはっきりしていれば“触る側”は狙いやすい。
たとえるなら、赤木は暗闇の中で光っているようなものだ。
普通の人間は闇の中で混じってしまうのに、赤木は見える」
(……だから、“選ばれた”んじゃなくて……)
(“見つかった”のか)
「赤木」
因幡教官が俺をまっすぐ見据えた。
「お前がこれ以上狙われないための方法は二つしかない」
「……二つ?」
「一つは──スキルを封印することだ」
「……!」
真白が顔を強張らせる。
「封印なんて……そんなの!」
「当然ながら、赤木が探索者を続けたいなら選べない選択だ」
因幡教官は淡々と言った。
「だから現実的に選ぶべきは二つ目──」
因幡教官の声が微かに低くなる。
「《展開型バリア》を“本来の形”で扱えるようになること」
訓練室に一瞬、熱のような緊張が走った。
「……それが、俺の……」
「そうだ。
赤木、お前は自身の力を“ただの盾”だと思っていた。
だが違う。
お前のスキルは“境界を扱う者”だ」
因幡教官は言い切った。
「赤木篤──
お前は、あれと対峙するための“鍵”になる」
真白が震えた声で。
「鍵……って……篤が……?」
「赤木以外に繋がれた者はいない」
迅がぽつりと言った。
「……中心になるのは、篤しかいないんだ」
俺はゆっくりと息を吸った。
怖い。
でも──逃げる気はない。
(俺は触れられた。名前を呼ばれた。
それでも戻ってこられた)
だったら──
「……教官。
本来の使い方……教えてください」
因幡教官はほんの一瞬だけ息を止め──
小さく頷いた。
「……よし。覚悟は確認した」
その目は、厳しくもどこか誇りを感じさせた。
「赤木。
明日からお前は──“二層目”の訓練に入る」
(……二層目……)
胸の奥で不思議な熱が灯った。
900PV感謝です。
なのにまだ一つもブクマも星もついてない( ; ; )
誰かつけて!!




