イレギュラー2
──“引っ張られる先”
八階層に足を踏み入れた瞬間、
俺は条件反射で《展開型バリア》を全方向に広げた。
「《展開型バリア》──全周囲!」
透明な球体が俺たち三人を包む。
その刹那。
“衝撃”が走った。
バリアの外側を何かが叩きつけ──
重い、深層の魔物特有の圧力が伝わってくる。
「っ……重っ……!」
浅層の魔物とは明らかに格が違う。
真白が目を見開く。
「え、なに……!? これ、浅層じゃ──」
「真白! 絶対に前に出るな!」
迅が低く叫ぶ。
敵の姿はまだ暗闇の向こうだ。
だが、気配だけでわかる。
(これ……深層級だ。
こんなはず、ない……)
浅層にいるはずのない存在。
迅が感じ取った“固定された気配”。
俺の胸を引く嫌な感覚。
全部が繋がっていく。
そして──
「……ッ」
胸の奥で“つながり”が急激に強くなる。
(やばい……来る……!)
「赤木!? 顔色が──!」
真白の声が遠くなる。
視界の端で、影が動いた。
巨大な輪郭。
人型か……四足か……どちらにも見える不定形。
深層特有の“形が定まらない魔物”。
「……《混相影獣》……かもしれない……」
迅が低く呟いた。
「嘘でしょ、あれ二十階層以上で出るやつじゃ……」
「断定はできない。だが“深層の亜種”であることは確実だ」
真白が一歩前に出ようとしたその瞬間──
「待て!」
俺の声が、いつになく強く出ていた。
「近づくな……! 真白……迅……今あれと近づいたら……」
胸を押さえ、膝が揺れる。
(繋がる……
あれと、俺のバリアが……
“共鳴”する……!)
バリアの膜が、ひずむように脈動した。
敵の気配と、俺のスキルが。
まるで引き寄せ合うように。
「赤木!!」
「篤!!」
二人の声が同時に響いた。
俺は歯を噛みしめ、意識がブレるのを必死に食い止めた。
(まずい……このままじゃ……バリアが……)
その時──
敵の影が、一気にこちらへ襲いかかってきた。
咆哮のような衝撃波。
階層全体が震えるほどの圧。
「篤!! 耐えて!!」
「バリアが崩れたら死ぬぞ!!」
真白と迅の声が重なる。
俺は叫ぶように腕を突き出した。
「──くそっ!!
ここで、崩れてたまるか!!」
意識の奥で、何かが“引っ張る”。
敵の影と繋がる、得体の知れない糸。
だけど。
(違う……俺は……)
俺は、その“繋がり”を全力で拒絶した。
「──これは俺のバリアだ!!
勝手に引っ張るんじゃねぇ!!」
その瞬間──
バリアが、ドン、と大きく膨らむように光った。
敵の衝撃を跳ね返す。
壁が砕け、砂埃が舞う。
迅が驚愕の声をあげた。
「……赤木……今の出力、訓練の三倍はある……!」
「篤すごい!! いけるよ!!」
真白の声。
でも──俺は気づいていた。
(違う……俺が強くなったんじゃない。
“引っ張り”が強くなったんだ……)
敵の影の奥で、何かが“俺を見ている”。
言葉でも形でもない、ただひとつの感情。
──“見つけた”。
背筋が冷たくなった。
(……あいつ、俺を知ってる……?)
そんなはずはない。
でも、そうとしか思えなかった。
迅が叫ぶ。
「赤木! 動けるか!?
このままじゃ埒があかない、俺と真白が前に出る!」
「ダメだ!!」
俺の声が響いた。
「俺が……前に出る!!」
二人が驚いて振り向く。
俺は胸を押さえながら、その得体の知れない“繋がり”を押し返すように立ち上がった。
「俺が……このバリアで押さえ込む。 あいつを……正面から抑えないと、三人ともやられる!」
真白が必死に首を振る。
「篤、それ無茶だよ!!」
迅も怒鳴った。
「赤木! お前の状態で前に出るなんて──!」
「──だからだよ!!」
俺は叫んだ。
「俺だけが……あいつの“引っ張り”を感じてる! 俺が前に出るしかない!!」
胸にくる強烈な“視線”。
敵は──確実に俺を狙っている。
ならば。
「……篤……」
真白の声が震える。
「迅……真白……頼む。二人は俺の背中を守ってくれ」
静寂。
そして──
迅が低く息を吐いた。
「……わかった。 お前が行くなら、俺たちがついていく」
真白も力強く頷く。
「絶対フォローする! 篤、ひとりじゃないから!」
俺は二人に頷き、前へ一歩踏み出した。
バリアが、獣の咆哮に呼応するように震える。
(来いよ……)
俺と“そいつ”の距離が、ゆっくりと、確実に近づいていく。
後少しで写し終わる




