初任務
やっとまともな戦闘シーンが書ける事に喜びを得ています
──「指示通りに動け。それだけで死なない」
ダンジョン管理局・新宿支部。
その奥にある薄暗い待機室で、俺たち三人は簡単な最終ブリーフィングを受けていた。
前衛の桐生真白は、緊張をごまかすみたいに小さく深呼吸している。
後ろで立つ葉山迅は、俺たち二人を観察するように視線を動かしつつ、無言のまま。
俺――赤木篤は、その二人と同じ「新人探索班」として今日が初仕事だ。
任務は**“10階層までの踏破”**。
新人向けの、安全度Aの浅層ダンジョン。
本来なら、事故なんてまず起こらない。
本来なら。
因幡教官が扉際に立ち、俺たち三人を見回した。
「それじゃ、行きなさい。
──新人はまず“死なないこと”が一番大事。覚えてるわね?」
真白が元気よくうなずく。
「はいっ!」
迅も静かに頷く。
「問題ありません」
俺も返事をする。
「……はい」
因幡教官は俺の顔を一瞬だけ見て、わずかに口元を緩めた。
「赤木。あなた、訓練のとき“引っ張られた感覚”があるって言ってたわね。
今日は絶対に無茶しないのよ。
《展開型バリア》は応用範囲が広いけど、同時に暴走の兆しも出やすい。
異常があったらすぐ言いなさい」
俺は背筋が伸びるのを感じながら「はい」と返した。
迅がその言葉に反応して、俺に横目を向ける。
「暴走の兆候……赤木、大丈夫なのか?」
「いや、まだ問題になるほどじゃない。ただ……まあ、ちょっと嫌な感じがあるだけ」
明確には説明できない。
バリアを展開すると、どこかで“向こう側”から糸を引かれるような気配があった。
(今はまだ、考えないでいい)
俺は深呼吸し、思考を切り替えた。
「じゃ、行くぞ。三人とも」
迅が短く言い、俺たちはダンジョンゲートへと向かった。
⸻
◆ダンジョン内部
転移していない。
ゲートをくぐるとそのまま地下の巨大空間へ接続される構造だ。
湿った空気、低い天井、ぐるりと広がる石壁。
音の反響で距離感が狂う。
「真白、前衛。
赤木は後方三メートル、バリアの維持。
俺は中間。索敵しながら進む」
迅の声は安定していて頼りになる。
「了解!」
「わかった」
俺は《展開型バリア》を起動。
透明な半球が、真白と迅の背中を包み込むように展開される。
通常の盾型とは違い、空間そのものに“壁としての面”を作るタイプ。
冒険者の中でも珍しいらしい。
歩き始めて数分。
迅が立ち止まり、わずかに首を傾けた。
「……気配が一つ。正面十メートル、壁の裏に」
「魔物?」
「小型。多分ラット・バーサーカー」
真白が剣を構える。
「来るなら斬るよ」
「待て。赤木、準備は?」
「いつでもいける」
俺は息を整えた。
初任務。
けど練習よりはるかに緊張する。
迅が石壁に小石を投げた瞬間──
壁の隙間から小型獣が飛び出した。
爪を振り上げ、真白めがけて飛びかかる。
「バリア展開──!」
反射的に《展開型バリア》を前方へ押し出し、
角度を調整し、斜めに面を作った。
魔物はバリアに激突し、軌道が逸れる。
「今!」
真白が一閃。
ラット・バーサーカーは地面へ落ち、動かなくなった。
……俺は息を吐き出した。
「赤木。今の、角度調整、訓練より速かったな」
迅が少し驚いたように言う。
「いや……勝手に手が動いたっていうか」
その瞬間、背中の奥がわずかにぞわりとした。
(また……引っ張られる感じ)
意識の隅に、誰かに触れられるような冷たい感触がある。
真白が心配そうに俺を覗き込む。
「篤、大丈夫? 顔色悪いけど」
「大丈夫。ちょっと力みすぎただけだって」
ほんとは違う。
けど今言うべきじゃない。
迅は俺を見て、少しだけ真剣な声で告げた。
「無理はするな。
赤木のバリアは俺たち前衛と索敵の命綱だ。
お前が崩れたら、このチームは崩れる」
その言葉が妙に重く響いた。
(……俺が崩れたら、崩れる)
だからこそ、足を止めるわけにはいかない。
「進もう。次の階層へ」
俺の声に二人が頷き、再び歩き出す。




